小説 | ナノ


(蒼玉様へ/榛準)


「準太くん準太くん」
「…慎吾さん、何でいるんですか。勉強は…」
「やめて!今日は息抜きだからその単語は慎吾さん聞きたくない!」
「…はぁ。…で、何か用っすか?」
「最近、三年の間で噂になっててさ。…準太お前、」
カノジョ、できたの?

ぶっ、と。
飲んでいたコーヒーを思いっきり噴いた。

「何やってんだよ汚ぇなぁ」
さすがというべきか慎吾さんは余裕でかわし、顔をしかめている。
「その反応ってことはマジか」
「違っ」
「違かったら冷静なエース様はコーヒー噴かんだろー」
おらー吐けー、なんて迫ってくる慎吾さんから逃れるためじりじりと後退するも、狭い部室ではたかがしれていて、あっという間に壁際に追いつめられてしまった。
「もー慎吾さん!彼女なんかいませんって!」
…そう、彼女は。

嘘は言っていない。
相手が彼女ではないからだ。
…そう、簡単に言えば。
俺の恋人、榛名元希が、正真正銘の男だということで。
…さらに言うならば、いわゆるそういった行為の際に、俺が女役であるという…いや、これは関係ないか。
とにかく、そんなわけで俺は、榛名と付き合っていることを、誰にも言っていないのだ。
他にもこの学校がカトリック系だとか、相手が他校の投手だとか、理由はいろいろとあるのだが。

「なー吐けよ準太、お前のこと好きな三年女子のためにも」
「……しつこいっす慎吾さん」
あの時はタイミングよく他の部員が部活開始を告げに来て事なきを得たが、用事はそれだったらしく慎吾さんはなかなかしつこい。
部活が終わって校門に向かう途中も、ずっと言っている。
…帰れいやらしんごめ。

「…誰か待ってんのかな」
「彼女とか?」
「この時間、俺らくらいっしょ残ってんの」
「マネジも帰ったしなー…」

「なんか騒がしいな…どうした?」
「あ、準さん慎吾さん。さっきから校門のとこにね…」
利央の言葉が、最後まで耳に届くことはなかった。
だって、見えたから。
校門の前にいたのは。
「…あっ準太、やっと来た!遅ぇよ!」

俺の、秘密の恋人だったから。

「お前っ、家で待ってろって!」
確かに今日は、部活がオフの榛名が遊びに来ることになってたけど。
何回も釘を刺したはずなのに。
「しょーがねーじゃん。早く会いたかったんだよ」
そう言うと、榛名は良い笑顔でこっちに走ってきた。

顔がおかしいほど真っ赤になるのがわかった。
隣の慎吾さんが、すべて悟ったような顔でにやけている。
誰も動かないその空間で、みんなこっちを見てるのがわかって。

…今、考えることではないのに。
……そんなに榛名を見ないで、なんて。

「…わかったよ、早く帰ろう」
元希、と普段は呼ばない下の名前を口にすれば、目の前の榛名が止まる。
そんな恋人の手を取って、俺は微笑んだ。

「…準太、反則」
「反則はお前だろ。いきなり来やがって」
…結局、止まることなどできないのだ。
手を繋いで家に向かいながら、そんなことを思う。

こいつも俺も、お互いの前で止まることなどするはずもないのだと。


Unstoppable Lover!
(恋は止まらない!)

20120604

蒼玉様に捧げちゃいます!
隠す気あるのか準さん。
もう一つの方も近々うpしますのでお待ちを!



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