小説 | ナノ


(夕月様へ/緑黄)


…あ、まただ。
「…なのだよ」
「ですね。でも…」
また緑間っち、黒子っちと話してる。
最近よく黒子っちと一緒にいる緑間っちは、すごく楽しそうだ。
…俺といるときより、ずっと。
……緑間っちと付き合ってるのは、俺なのに。

告白したのは俺で、たぶん好きな気持ちも俺の方がずっと大きくて。
だって、緑間っちは、あんまり人前で俺と話してくれなくて。
それなのに、黒子っちとはあんなふうに、仲良さそうに話す。

「さすが黒子なのだよ」
ふわ、と。
緑間っちが微笑んだ。
俺はあんな笑顔、向けてもらったことないのに。
黒子っちには、あんなふうに。
「……紫原っち」
「ん?どうしたの黄瀬ちん。…あ、黒ちんとミドちんだー」
移動教室の途中だということを思い出して、隣にいた紫原っちに声をかける。
…酷く、頭が重い。
このままここにいたら、何をしでかすかわからない。
黒子っちと緑間っちを邪魔しに行かない保証が、まったくできない。
自分の身体なのに、自分じゃないみたいで。
仕事忙しかったし、疲れてるのかな。きっとそうだ。
…緑間っちの視線の先にいるのが俺じゃないなんて当たり前のことに、こんなに泣きたくなるなんて。
「ちょっと、頭痛くて…保健室行ってくるんで、先生によろしくっス」
「えー、大丈夫?送ってく?」
「大丈夫っスよ」
そんなにひどい顔をしていたのか、珍しく心配そうにしている紫原っちに手を振って、保健室に向かう。
背を向ける直前、緑間っちと一瞬視線が合ったような気がしたけど、きっと気のせいだ。

「黄瀬君」
名前を呼ばれた気がして、意識が浮上する。
少し横になるだけのつもりが、いつの間にか眠っていたらしい。
「あ、…起こすつもりはなかったんですけど、すみません」
「…黒子っち…?」
「具合はどうですか?お昼、適当に買っておきましたけど、食べられますか?」
「え、あ。悪いっスね」
ベッドの横に座った黒子っちが差し出すパンを受け取って、申し訳ない気持ちになる。
こんなに優しい黒子っちに、俺は嫉妬したりして。
…こんな俺のこと、緑間っちが好きでいてくれるわけがないじゃないか。
「黄瀬君」
「ん?」
適当とか言うわりに、ちゃんと俺の好きなパンを選んでくれていて。
それをもぐもぐと咀嚼していると、名前が呼ばれた。

「緑間君、ずっと君の話しかしてないですよ」

…誰か、ふきださなかったのを褒めてほしい。
「大丈夫ですか?」
器官に詰まったパンにけほけほ噎せていると、心配そうに背中を撫でてくれる。
…黒子っちの発言のせいなんですが。

「…気付いてたん、スか」
「あれだけ見つめられたら、まぁ」
「……俺の話、って、」
「早い話がノロケですよ」
…あぁ、どうして、緑間っちはそうやって。
「緑間君は、黄瀬君を前にすると、恥ずかしくて何もできなくなるんだそうです」
こんなにも、こんなにも。
「今日だって、ずっと見てましたよ」
俺のことを、捕らえてしまうのだろう。

俺の視線の先は、いつも緑間っちで。
「…そうですよね、緑間君」
一方通行だと思ってたそれは、実は。
ちゃんと、返されていたのだと。

「…しゃべり過ぎなのだよ、黒子」
開いたカーテンの向こう側の、眼鏡の奥の瞳は、ちゃんと俺をうつしていた。


視線の
(俺と同じ想いが、ちゃんとある)

20120603

夕月様に捧げます!
切甘って何だろうか…。
黒子っち完全に被害者になってますがww



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