小説 | ナノ


(黒黄)



「ねーねー黒子っち!」
「何か用ですか、黄瀬君」
「この飴ね、惚れ薬なんスよ!」
「…はぁ」

『黄瀬ちんありがと、飴あげるー』
さっきの授業中、当てられて困ってた紫原っちを助けてあげたら、お礼にともらったさくらんぼ味の飴。
『恋の味!』と書かれたパッケージは、最近女の子の間で流行っているらしい、告白で渡すと絶対成功するという噂の飴。
それを持って、昼休みの屋上にやってきた。
ここで黒子っちがお昼を食べてるのを知ってるのは、たぶん俺だけ。
お弁当を広げる黒子っちの横に座って、ピンク色のそれを見せる。
「あぁ…それ、桃井さんが持ってました」
「もらったんスか!?」
「いえ、飴はあまり好きじゃないので」
「…そう、スか」

「中身はただの飴ですよね?」
「こういうのは雰囲気が重要なんスよ!」
…もし、黒子っちが惚れ薬を持ってたら、
それは、誰にあげるんだろう。
隣でもぐもぐとお弁当を頬張る黒子っちを見ながら、そんなことを考える。
黒子っちにそういう話を聞いたことはないけど、一つだけわかることがある。
…その相手は、俺じゃない。
今も、この先も、ずっと。
黒子っちが俺を、俺が黒子っちを見てるのと同じ目で見ることは、ない。

「黄瀬君」
「…ん?なんスか?」
「黄瀬君はそれ、誰にあげたいんですか?」
…俺が、誰に。
そんなのもちろん決まってて、たぶん黒子っちもそれを知ってる。
「…黒子っちに、決まってるっス」

「…そうですか。じゃあ下さい」
「へっ?」
「惚れ薬。僕に下さい」
俺が差し出したその飴を、黒子っちはパクリと口に入れた。
「え?飴、苦手なんじゃ、」

その言葉が、最後まで紡がれることはなく。
唇が、塞がれる。
甘いさくらんぼの味が、口の中いっぱいに広がった。

「…効きましたか?惚れ薬」
俺の口へとうつされた、惚れ薬。
効くわけがない、その飴。
「…ただの、飴っスよ。…だって、」
だってもう、とっくに。

君に惚れ薬
(とっくに惚れてるから)

20120527



[back]