小説 | ナノ


(笠黄)


笠松幸男先輩、こんにちは。

いきなり現れた高校の後輩は、開口一番そう言った。

「はぁ?いきなりなんだよ」
「いてっ!モデルの顔に何てことするんスかー!?」
高校の時からの習慣で頬に軽くパンチを入れれば、大して力も入れていないのに大げさに痛がる。
変わらない中身とは裏腹に、少し身長が伸びて大人っぽくなっているそいつ。
高校三年生になって、ますます力をつけていると噂のキセキの世代の一人が、そこにいた。

「…で、何か用か」
立ち話もなんなので近くのマジバに入って、向かい合って座る。
改めてそう問うと、黄瀬は微笑んだ。
…まさか、なんとなくっス、とか言わねーだろうな…。
ここは海常のある神奈川や、こいつの実家や仕事場の集まっている東京なんかからは大分遠い。
キセキの世代のキャプテンがいる高校からならわりと近いが、練習試合があったとかも聞かないし。
「俺、この大学来ようと思って」
「はぁ?」
思わず間抜けな声を上げてしまった。
「なんで」
「バスケがしたいから、っスかね」
…確かにこの大学はそこそこ強豪。
だけど、こいつなら、もっと強い大学だって狙えるだろう。
そう言うと、黄瀬は少し困った顔をした。
「…わかんないっスかねぇ」
「は?何をわけわかんないことを、」

突然、先を紡げなくなった唇。
塞がれたのだと、理解する頃には、既に。
黄瀬は元のように向かいに座って、すました顔でコーヒーを啜っていた。

「てめっ、何して!」
「俺の気持ちっス。もしかして初めてでしたか?安心してください。俺が先輩の最初で最後なんで」
「そういう問題じゃねー!こんな場所でっ」
「この席、結構周りから見えにくいんスよ」
「だからそういう問題じゃなくて!こんな天下の往来でお前モデルなのに、誰かに見られたら、」
「…へー?じゃ、先輩」
こんな場所じゃなきゃ、いいんだ?
「…っ!」

黄瀬涼太は、台風だ。
まっすぐ突き進んでいるようで、たまに反対回転して惑わす。
バスケでは絶対にお返しを忘れない。去年の夏、その前の年にこっぴどくやられた青峰をボコボコにしてたのはまだ記憶に新しい。

認めたくなかった。
認めるのはいやだったのに。
「…言うのがおせぇよ」
結局のところ、俺はこいつから離れられないんだろう。
巻き込まれる準備はもう、とっくにできている。


くるくるまーくのすごいやつ
(クラクラする経験、させてくれるんだろ?)


20120521

男前な受けっ子が最近きてる。



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