小説 | ナノ


(ハルコ様へ/榛準)


「秋丸てめー死ねホント死ね」
「ごめんって!」
時計を見れば、待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。
秋丸がサッカー部とケンカなんかしてるから。
…同じ体育会系のあいつのことだから、遅くても5分前には確実についてるはずだ。
「とりあえず俺は帰るからな!」
「そんな急ぐこと、」
「あんだよっっ!!」
手早くシャワーを浴びて、髪を乾かすのもそこそこに制服に着替える。

高瀬準太と恋人になってから、3日。
今日は、初デートだ。

待ち合わせは駅前。
ここからなら自転車で10分。
チャリ置き場で秋丸のチャリを探し、ナンバーを合わせて鍵を開ける。
後で返せばきっと問題ないだろ。
だって秋丸だし。

(………ん?)
待ち合わせは、駅前のはず。
それなのになぜか、校門前に見慣れた姿。
それは、恋してやまない、
「……準太?」
「…あ、やっときた。遅ぇよ」
俺の姿を捉えた彼は、可愛らしく笑う。
同い年で、野球部で、身長もそんなに変わらないのに、そんな準太は、可愛いと形容するのにぴったりに見えた。
「なんで、待ち合わせ駅じゃ…」
「今日、部活早めに終わってさ。近いし来ちゃった」

あ、ほら、映画間に合わない。
そう呟くと、準太は立ち上がる。
「お前のチャリ?」
「え?…いや、秋丸の」
「パクったのかよ。かわいそー」
そう言いながら、準太は荷台の上に乗った。
「ほら、榛名。お前も早く乗れよ」
「…あ、あぁ…」
その言葉に、俺もサドルにまたがる。
途端に準太の手が、肩に乗せられた。
…いや、後ろで立ってんだから、当たり前だよな、うん。
恋人を名乗り始めたのなんかごく最近で、もちろんこんな距離だって初めてで。
理屈はわかっていても、…なんか、あれだ。
とりあえず近いし、なんか準太いいにおいするし。
「…榛名?」
「いや何でもない!行くぞ!」
黙り込んだままいつまで経ってもこぎ出さない俺に、準太が怪訝そうに声をかける。
耳に柔らかい息がかかって、飛び上がりそうになった。
それをごまかすために、慌ててペダルに足を乗せる。
「準太、落ちんなよ」
「おー」
ぎゅ、と。
さらに強く抱きつかれた。
心臓が跳ねる。
全力でベースを回ったときみたいな、速い鼓動。
…だけど、それは俺だけのものではなくて、

「…お前だけじゃねーよ、ばーか」
距離の近さゆえ、届いてしまった小さな声に、俺は一気に顔が熱くなるのを感じた。
耳まで赤いはずだけど、準太は何も言わない。
…だって、後ろに乗ってる彼もまた、同じように赤くなってるはずだから。

鼓動×2
(それが恋してるってこと)

20120528

ハルコ様に捧げます!
大変お待たせいたしました!
…初々しい、のか…?



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