小説 | ナノ


(アルゴン様へ/榛準)


「…げ、降ってきたな」
「マジか」
市営図書館を出ると、ぱらぱらと小雨が降っていた。
「榛名、傘持ってんの?」
「持ってるわけねーじゃん」
「…威張るなよ」
榛名に期待なんか、元々してないけどさ。
「別にいいじゃねーか。準太、持ってんだろ?」
「持ってるけど」
「とりあえず俺んちの方が近いし、そこまで行こうぜ?」

テスト期間まっただ中。
当然部活は休みで、俺と榛名は図書館に集まって勉強していた。
…こんなことなら、家から出るんじゃなかった。
どちらかの家で勉強すると、榛名はすぐいちゃつきたがるから、図書館に来てみたはいいものの。
結局榛名は集中なんかしてなかったし。

俺の折りたたみ傘に、ふたりで入る。
弟からパクってきた傘は、男子高校生ふたりがおさまるには少々小さい。
「…便利だよなー」
「は?なにが」
「俺達だよ。こうしてれば利き腕濡れないじゃん」
榛名は俺の右側に立って、ニカッと歯を見せて笑う。
「確かに」
少し高い位置にある笑顔を見上げて、俺も微笑む。

「帰ったらとりあえずいちゃつくぞっ」
「馬鹿。先に勉強!」
「えー?あんなにしたのに!」
「嘘つけ!」
…でも、まぁ。
少しくらい付き合ってやってもいいかも、な。
そう思うのもたぶん、この近すぎる距離のせい。

「…準太ぁ」
「ん?なんだよ?」
「やっぱり俺、家まで我慢できねー…」

ゆっくりと降りてくる傘。
こうなればもう、次の行動なんかお見通し。
榛名は止まらないし、止めるつもりもない。

俺も素直に、目を閉じた。


の中、ふたり
(今だけ、世界はふたりだけ)

20120528

アルゴン様、お待たせいたしました!
甘い雰囲気を目指したらどうしてこうなった。
利央とかが見ちゃってわんわん泣いてたら(私が)面白い。



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