小説 | ナノ


(青桃)

※死ネタ注意!



隣同士の家に、仲の良い親達。
そんな環境の中で、俺とさつきは生まれた時から一緒にいた。
いつもくだらないことで喧嘩して、次の日にはすぐ忘れてまた笑って一緒に遊んで。
雷を怖がるさつきと抱き合って眠ったり、一緒に風呂に入って髪を洗いっこしたり。
バスケを始めてからは、親父が庭に作ってくれたゴールでシュートを練習したり、1on1したり。
俺の今までの人生に、さつきがいなかったことなんて一度もなかった。
それはこれからも、ずっと続いていく、そのはずだったのに。

桐皇高校を卒業して、大学に進学した俺に、さつきは当然のようについてきた。
そんなある日、何も変わらない距離で、隣を歩いていた。
『もう知らない!青峰君のバカっ!』
原因すら、忘れてしまった些細な言い合い。
怒ったさつきは、横断歩道を駆け出して。
そこに、信号を無視したトラックが突っ込んできて。
…さつきの時間は、止まった。

『…泣かないんスか?』
さつきの葬式で、綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしながら、黄瀬は俺に言った。
『だって青峰っち、桃っちと付き合ってたんじゃ、』
『俺達は、ただの幼なじみだ』
『……そっスか』
俺とさつきにそんな感情はなかった。
そういう意味を込めて言えば、黄瀬は真っ赤な目をぱちくりさせていた。
みんな泣いていた。
テツも、黄瀬も、緑間も、紫原も、人前で絶対泣かなかった赤司も。
だけど、俺は泣かなかった。
なぜだか、泣くことができなくて。

家に帰って、部屋に入る。
窓から見えるさつきの部屋は、何も変わらない。
『もう!覗かないでよエッチ!』
じっと見てれば、さつきのそんな声が聞こえてきそうで。
…だけど、実際はもちろん、どんなに見ていてもさつきはどこにもいなくて。
これから一生、その声が聞こえることはないって、俺はもうわかっていて。

耐えられなくなって、カーテンを閉じる。
『……ん?』
俺は、カーテンをめったに閉じない。
面倒だし、さつきの部屋が見えなくなるから。
…だから、気付かなかったんだろう。
カーテンレールに挟まれた、小さな紙切れ。
『大ちゃんが好きです』
さつきの几帳面な字で書かれたそれに。

さつきが死んでから初めて流れた涙が一粒、その字を滲ませた。

今までずっと隣にいた。
これからも、ずっといると思ってた。
大学出ても、なんだかんだ一緒にいるって。
じいちゃんとばあちゃんになっても、ずっとずっと、隣で笑ってるって。
……好き、だった。
近すぎて、気付かないほどに。

遅すぎた想いは届ける先すら失って、俺は長い間、ずっとそこで泣き続けた。


…あれから何年もの月日が流れた。
さつきのいない世界で、俺は生き続けている。
就職して、結婚して、子供ができて。
当たり前のようにさつきとすると思っていた、いろんなことをした。
「パパ!今日はお墓参りでしょ?」
「おー。皐月はよく覚えてるなー」
そして今日は、幾度目かのあの日。
…さつきの、命日だ。

妻と、娘の皐月と共に、高台の上にあるさつきのお墓に向かう。
両手に、抱えきれないほどの花束を持って。
さつきの一番好きだった花を、俺は毎年同じようにさつきのお墓に供える。

「なぁ、さつき」
心の中で、そっとさつきに語りかける。
「ずっと、大切に思ってる」
今では、お前だけなんて言えないけれど。
いつまでも特別な、俺の初恋。
…ずっとずっと、忘れない。

目を閉じる。
大好きな花に囲まれて、あの頃のさつきが、微笑んだように感じた。


きみのすべてをで覆って
(罪滅ぼしでも忘れるためでもなく)
(愛してた、愛してる)
(それだけを伝えるために)



20120601

わけもなくただ、好き様に提出。
またまた暗い話…。
皐月(さつき)ちゃんはむろん青峰さん命名。
単純な素直なセンスですね。



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