小説 | ナノ


(煉華様へ/緑黄)


黄瀬は奔放だ。

「わー、くらくらするっス」
待ち合わせて、とりあえず入った駅前の喫茶店。
熱いコーヒーを飲むのに曇るのが嫌ではずしていた俺の眼鏡をかけて、黄瀬は楽しそうにはしゃいでいる。
「…眼が悪くなるのだよ」
「大丈夫っスよー」
正面でミルクティーをストローで吸いながら楽しそうな黄瀬に呆れた声をかければ、明らかに浮かれた返事が返ってきた。
…何がそんなに楽しいんだか。

「あ、あれモデルの!」
「え、あ、ホントだ!」
「声かけてみる?」

「黄瀬くーん!」
近くの席でひそひそと話していた女子三人組が、突然こちらのテーブルにやってきた。
「いつも見てます!」
「ホント!?ありがとっス!」
眼鏡がなくて、ぼやけた視界。
その真ん中で、黄瀬が微笑むのがわかった。
「眼鏡似合ってるー」
「そうっスか?これ、彼のなんスよー」
「お友達?結構かっこいー…」
「へへ、緑間っち、かっこいーだってー」
ニコニコと、綺麗な笑みを。
…俺以外の前で。

……面白くない。

「……俺のなのだよ」
「え?」
黄瀬はとぼけた声のまま、彼女達から俺へと視線を戻す。
その無防備な唇に噛み付いてやりたくなったが、色々まずいので自重。
かわりに伝票を掴んで、席を立ち上がった。
「…黄瀬、早く来ないと家に入れないのだよ」
「え、ちょっと待って緑間っち!…じゃあ、これからも応援してね!」
彼女達に手を振って、黄瀬は会計を払う俺のところに駆けてくる。
「…俺のなのだよ」
今度は聞こえるように言ってやった。

「え?…心配しなくても、眼鏡ならちゃんと返すっスよー」
黄瀬は一瞬驚いたあと、へらりと笑って俺に眼鏡を渡す。
鮮明になった視界の中で、黄瀬が笑った。

「…緑間っちー。眼鏡返したんだからそんなに睨まないでほしーっス」
少し困ったように、黄瀬は首を傾げる。
さっきの発言は、眼鏡のことだと思っているらしい。

……今だけは、そう思っておけばいい。


おれのもの
(家に着いたら、よくわからせてやろう)


20120110
煉華様へ。できててもできてなくても、お好きな解釈でどーぞ。



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