小説 | ナノ


(榛準)




ねぇ、笑っていいの?
ねぇ、泣いてもいいの?
ねぇ、怒っていいの?
好きになっていいの?




『あした さいたまに返る。』
「帰る、変換ちげーし…」
久しぶりに、榛名からのメール。
晴れて優勝投手となった榛名。
明日帰ってくるらしい、俺の恋人。

高校の時から付き合って、そろそろ10年になる。
でも、あまり一緒にいた思い出はない。
高校の時は別の高校だったし、対戦もした。
そして、卒業後ドラフトで指名された榛名とは遠く離れた。
…俺が、大学をそっちにすればよかったのかもしれない。
その選択肢を選ぶこともできた。
だけど、そうしなかった。

榛名は契約金で埼玉にマンションを買い、チームの本拠地へと旅立っていった。

榛名のマンションは、一人で住むには広い。
だけど俺はそこに住んでる。
…榛名と二人で決めたことだから。

『一緒に来るか』
旅立つとき、榛名は言った。
俺が大学を卒業するときも言った。
だけど、それは榛名の本心じゃなかった。
わかっていたし、俺もそれは同じだった。
だから、首を振った。

寂しくない、と言ったら嘘になる。
最初の頃は夜になると、会いに行きたくてたまらなかった。
久しぶりに会えたのに、喧嘩してしまったこともある。

だけど、榛名が言ったから。
『待ってて、準太』
だから待ってる。この場所で。

…やめよう、悲しいことを考えるのは。
明日、会えるんだ。
一週間後にはもう、遠く離れてしまうけど。
時を止めることはできないし、榛名を繋ぎ止める術もない。
でも、今は。…今だけは、どうか。


unteach
(忘れさせてよ、不安も悲しみも)

20120123

♪恋距離遠愛/DECO*27



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