小説 | ナノ


(榛準)


初めて見た時、そいつの居場所はマウンドだった。
綺麗なフォーム、俺にはない多彩な変化球。
そしてその真ん中の、美しすぎる無表情。
…そこに立つために生まれた、出来すぎた人間に見えた。

初めて話した時、そいつは居場所を失いかけていた。
夏の大会、初戦敗退。
相手は一年だけの無名の公立校。
昨年優勝校で、二年生でエースを張る、そいつにとってはあまりに重すぎる現実。
…その時のそいつは、消えてしまいそうなくらい儚くて、

……気付いたら、抱きしめていた。

「……榛名?」
なに、考えてるの?
俺の右肩にもたれて、眠っていたかと思われたそいつが、俺の顔を覗き込みながら尋ねてくる。
「…あー、なんか、」

準太と会った頃のこと、考えてた。
そう言うと、そいつはわずかに唇を尖らせて、拗ねた表情をつくる。
「…昔の俺の方が良かった?」
「……昔の自分にヤキモチかよ…」
「…だって榛名、今の俺が隣にいるのに、こっち向かないし…」
……押し倒したくなるようなことを言ってくれる。

「心配しなくても、」
俺は毎日、準太に惚れ直してる。
赤く染まった頬に、優しくキスを落とす。

あれから、いくつもの季節が巡り
そいつの居場所は、俺のとなり。

君の居場所
(これから先も、ずっと)

20111109



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