小説 | ナノ


11/7 Happy Birthday Riou Nakazawa!

(利準)


『仲沢利央 立入禁止』

そんなことを書かれている部室の前で、俺は立ち尽くす。
この中には今、受験勉強まっただ中なはずの引退した三年生がいるはずだ。
それをわかっていて、しかも明らかに貼り紙の文字が山さんの筆跡。
……これで無視して特攻しない程度には俺は成長している。
だって、今日は、11月7日。
……俺の、16回目の誕生日なんだから。

「利央、オツカレー」
だから、俺以外のみんなが俺の横を通って部室に入っていってもキレたりしない。
「ホントに先輩たち、利央好きだよなー」
迅も苦笑しつつ、俺の肩を叩いてドアの向こうへ消えた。
他人事だと思って、薄情なヤツだ。

「…ふぇっくしょい!」
11月の、既に空が真っ暗な時間。
汗びっしょりで練習着のままの俺。
…今夜は少し冷える気がする。
くしゃみをして、体を縮こまらせる。
「山さんまだァ…」
呼びかけてみても返事はない。
何をしているのかは大体想像がつくけど、このままだと風邪を引いてしまいそうだ。
「……利央?」
ドアを開けてしまおうかと考えていると、後ろから声がかかった。
「準さん!」
そういえば練習の後、監督に呼ばれていた準さん。
今戻ってきたらしい。
「何やってんだ?こんなとこで」
準さんの問いかけに、黙って貼り紙を指さす。
「…あぁ、ナルホド。お前誕生日だっけ」
全て悟ったらしい準さんは、思い出したように言った。
「…忘れてたのォ…」
仮にも恋人なのに、メールも電話も来ないと思ったらそういうことか。
まぁ、準さんの頭の中に和さん以外の誕生日がインプットされてると思った俺がバカだったよ。
自分の誕生日すら怪しい人なんだもんな。
「ふーん。まぁ、オメデト?」
そう言った準さんは、着ていたウインドブレーカーをおもむろに脱いで、放ってよこした。
見事に俺の額に直撃した。…ナイスコントロール。
「なんで疑問形なのさ」
「利央のくせにムカつくから」
今度は頭を小突かれた。
「じゅーろく歳とか、一緒じゃん。ムカつく」
「……可愛い」
「うるせぇ」
グーで殴られた。
…にやけそう。

「準太ー?来てんなら早く手伝えよー」
中から慎吾さんが準さんを呼ぶ。
「うぃーっす」
準さんは俺の首をしめるのをやめて、ドアへと向かう。
ドアを開ける直前、準さんがくるりと振り向いた。

「風邪引くなよ、バカ利央」

ふわりと優しく微笑んだのは、気のせいではないはずだ。
そのまま準さんはドアを開けて、中に入っていった。

「…ズルいなぁ…」
普段はすごく意地悪で、ジコチューで、暴力的で。
でもふとした瞬間、優しくて可愛い人になる。
……きっと俺はそんな、ズルい準さんに一生夢中。

しばらくしてドアが開けられ、予想どおり俺の誕生会の準備がされていた部室でみんなと騒ぐ。
それらももちろん嬉しかったけど、俺にとっては準さんに貸してもらった、準さんの匂いのウインドブレーカーが、一番のプレゼントかもしれない。


一番のプレゼント
(あるいは、あなたの笑顔かも)

20111109

利央おめでとう!おくれてごめんね!



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