小説 | ナノ


(青黄)

「――次はここにπを代入し……」
数学教師の、退屈そうな説明が響く。
しゃべっている人が退屈そうな話が、聞いていて退屈じゃないはずがない。
勉強がお世辞にも得意とは言えない俺、黄瀬涼太ならなおのこと。
(ちなみに俺の勉強面での実力は、黒子っちいわく『イマイチ』)
前の席に座る紫っちは、完全に夢の中である。
暇だししゃべりたいけど、起こしたりしたらどうなるかなんて経験上充分理解している。
隣の女子は、その前の席の女子と手紙交換に夢中だし、窓際一番後ろのベストポジションが今は仇である。
(…なんか、寝ちゃいそう、ッス…)
暖かい陽射しが気持ちよくて、ついウトウトしてしまう。
……けど。
『桃っちのノートに頼ってばっかりいないで、たまには起きてノートとったらいいじゃないスか!』
この前、青峰っちにそう言ってしまった手前、なんとなく寝てはいけない気分になる。
(ちなみに、そんなことを言った本当の理由が、『俺じゃなくて桃っちにばっかり借りてるから』なのは絶対に秘密だ)
眠気を覚ますため、右手でシャーペンを回して、机に落書きを始める。
ハートを描いて、その下に三角。下に棒を伸ばして。
黄、瀬、涼、太。
青、峰、大、輝。
……って、何描いてんスか俺ぇっ!!
相合傘って…乙女かよ!
自分で描いたのに、恥ずかしくて顔を背ける。
窓の外へと顔を向けた俺は、危うく飛び上がりそうになった。
(……青峰っち、だ)
青峰っちのクラスが、外で体育の授業をしていて、青峰っちは黒子っちと並んでしゃべっている。
…不意に、こちらを向いた。
目が、合う。
慌てて逸らして、教室の中へと視線を戻す。
…見ていたの、バレただろうか。
顔が赤いのは…気づかれてないといいけど。
恥ずかしさに思わず俯くと、机にはさっき描いた相合傘。

ダブルで恥ずかしいッス…。

机に落き、相合傘
(そして、窓の外のキミ)

20110908
title by うさぎはロマンチスト



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