小説 | ナノ


(黒黄)

「ねぇ、黒子っち」
久しぶりの、おなじ日のオフ。
俺の家で、俺のベッドで、黒子っちの腕の中。
といっても黒子っちの方が小さいから、どっちが腕の中なのかは微妙なところだけど。
気持ち的には、ね。

「なんですか、黄瀬君」
あまい声が、耳元で鳴る。
幸せな瞬間。
だけど、幸せすぎて怖くなる。
明日からはまた、俺と黒子っちは一緒にいられなくなる。
違う高校で、男同士で、秘密の恋人で。
離れている間、俺と黒子っちの時間は別々に廻る。
今が幸せなぶん、たぶん俺は淋しくて死んでしまいそうになるから。
だから。

「今、時間が止まったらいいスね」
叶わぬ願いを口にする。
その言葉を聞いてもなお、俺の部屋に響く秒針の音は止まない。
止むはずが、ない。
だけど、叶わなくても、口にしたかった。
黒子っちに聞いて欲しかった。

「僕は…」
しばらくして、秒針の音だけが響いていた空間に黒子っちの声がした。
「僕は、今止まったら嫌です」

「え…」
「だって…」
黒子っちの答えは、俺とは反対。
疑問に思った俺の耳元で、また優しい声が鳴る。
同時に、口にしようとしていた言葉が塞がれる。
秒針の音が、きこえなくなった。

時計の針が止まったら
(今から黄瀬君にキスできないでしょ?)

20110903
title by うさぎはロマンチスト



[back]