小説 | ナノ


2/2 Happy Birthday
Junta Takase!


(榛準)

はるな、と。彼の名前を呼ぶのが好きだった。
あいつは女の名前みてぇ、とその苗字を気に入っていなかったようだけれど、俺はその響きが気に入っていたから。
マウンドでの凛とした立ち姿。その左腕から繰り出される速球。綺麗な音が、野球をする榛名にはぴったりだった。
『恋人になったんだし、準太も俺のこと下の名前で呼んでくれよー』
冗談交じりに、時に真剣に、彼はそうやって訴えてきたけれど。
たぶん、あいつは俺が和さんやタケや利央を、下の名前やあだ名で呼ぶのが羨ましかったんだろう。それも分かっていた。
けれど俺は頑なに、あいつを榛名、と呼び続けていた。

今では少し後悔してる。結局、一度だって“元希”と呼びかけたことはなかったっけ。
俺が、榛名元希をそう呼ぶことは、もう二度とないのだから。
――“榛名元希”は、もう俺の隣にはいないのだから。

けれど、やっぱり。あの笑顔を思い浮かべると、出てくる名前は。

「はるな…」

呼び飽きるほどに慣れた、そちらだ。



「こーら、準太。もうその呼び方やめろ」

返事が欲しかったわけではない。けれど、その名前に返ってきた咎める音。
振り返ると同時に、肩に降りてくるブランケット。
「あと、もう投手じゃねーから肩冷やすなとかは言わねーけど、窓開けてるならあったかくしてねーと風邪引くぞ」
そのまま後ろからぎゅっと抱きしめられる。そうするならブランケットは別にいらないだろと思ったが、実際冷えていたので何も言わないでおく。
「またお前は昔の男の名前呼びやがってー。いくら俺でも嫉妬すんだけど」
「何言ってんだよ」
振り返る。少し高い位置にある拗ねた頬を軽くつねる。
「――榛名は、お前の名前じゃねーかよ」

「それは旧姓だキュウセイ!今の俺は榛名じゃねーって!」
「わーってるよ。元希はわがままだな」
機嫌を取るため背伸びをして、男――旧姓榛名、高瀬元希にキスをした。


結婚はできないけれど、養子縁組をしようと。繋がりを欲しがったのは榛名の方で。
『俺が準太の苗字になる』と、榛名姓を迷わず捨てたのも彼だった。
別に、俺が榛名、になっても構わなかったのだけれど。

『だって、俺が高瀬になったら、お前もさすがに名前で呼ぶだろ?』

指輪を差し出しながら、そんなあまりにちっちゃな願いを告げた男は、思っていたよりもだいぶ可愛らしくて。
この世に俺が呼びたい『榛名』がいなくなってしまったのは、その時も、今でも少し残念だけれど。

「早く飯食ってベッド行こうぜ!お前の榛名より俺のがスゲーってこと見せてやるよ!」
「だからなんでお前はそうやって即物的なんだ!っていうか結婚して一緒に住み始めてから毎日のようにがっついてきやがって上達するのは当たり前だろ!」
「お前がキスして煽ってくるのが悪いんだろ」

――彼を、当たり前のように下の名前で呼ぶ距離に。
彼と同じ苗字を持てる距離に比べたならば、そんなもの全然惜しくはない。

榛名がいない
(いるのは愛しい恋人だけ)

20150202

準太誕生日おめでとう!
なぜかおお振りキャラは普通に養子縁組をするイメージがあるんですよねーというお話。
そしておお振り更新するのがちょうど一年前に準太の誕生日小説を更新した時以来という…そしてサイト開くのもかなり久々というorz



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