小説 | ナノ


Happy Birthday!
Junta Takase * 2/2

(榛準)

自転車で15分。俺と榛名の家の距離。
私立である桐青高校のチームメイト達は遠くから通っている人間も多いため、彼らよりもずっと手頃に会える距離だ。
それでも、珍しく大雪に見舞われた埼玉県において、その距離は。
『わりー準太、チャリで道走れねぇから明日は行けねーわ』
──決定的に、遠い。

「…榛名のばーか」
未だ現役のガラパゴス携帯をベッドに投げ、小声で悪態をつく。
…わかってる。こんなのわがままだ。
それに、無理をしてまで来て欲しいわけじゃない。
風邪を引いて寝込むくらいならいいが、万が一彼のプロになるという夢が絶たれるなんてことになれば。
たとえ榛名が許してくれても、俺が俺を許せなくなるから。
だけど、どうしようもなく思ってしまう。わがままを言いたくなってしまう。
子供みたいな言葉を、彼にぶつけてしまいたくなる。
『俺、今日誕生日なのに』って。

榛名と付き合い始めて、最初の俺の誕生日。
しかもお誂え向きに室内練習場の改装日で、日曜日にもかかわらず部活は休み。
基本的に日曜はサッカー部優先の武蔵野第一も休みらしく、俺と榛名は久しぶりに会う約束をした。
普段は会っても野球を観に行ったりバッティングセンターで打ったりと野球馬鹿な俺たちだけど、珍しく今回会うのは俺の家。
……正直に言えば、期待してた。弟にバレないように、普段はかけない音楽を無駄に流して、当日に怪しまれないようにするくらい。
なのに、会えないんだ。
その事実に、気持ちが沈んでいくのを感じる。
榛名のせいじゃないってことは、もちろんわかってる。
雪が降り始めたのは午前だし、連絡がこんな時間ってことは、迷ってくれたんだろう。
それだけで充分だって。そう思えるほどには、まだ大人にはなれないけれど。
自転車で15分。半端に近いせいで、ますます榛名との間に距離を感じた。

そのまま、どうやら少し寝てしまったらしい。
ベッドの脇に体育座りのまま。利央にバレたら怒られそうだ。
携帯の着信音に、意識が浮上した。
少々凝っている首をコキコキと動かしながら時計を見ると、榛名からのメールを読んでから一時間が経過していた。
もう日付が変わりそうだ。誕生日がやってくる。
ひとりぼっちの誕生日。…利央でも呼びつけようか。でもこの雪だとさすがに可哀想だ。
そもそも、榛名が来るからと半ば強引に先輩たちの誘いを断ったのだ。今更学校のヤツには会えない。
…と、そこでふと、未だその存在を主張し続ける携帯電話のことを思い出した。
「…電話か」
寝ぼけていて気付かなかったが、どうやら音はメールではなく着信を告げていたらしい。
鳴り止まないそれを手元に引き寄せ、相手の番号を確認することもなく耳に当てる。
「もしもし?」
『おー準太。ワリィ、寝てたか?』
「榛名ぁ!?」
聞こえてきた聞き慣れた声に、思わず飛び上がる。
…だって、こんな時間。普段なら俺もだけど、榛名もとっくに寝てる時間だ。
……あ、そういえばメール返してなかった、気がする。
怒ってると思われてしまったのかもしれない。
「どうしたんだ、こんな時間に。メール返さなくて悪かったな。ちょっと寝ちまってて」
『あー、いやな。やっぱり直接謝らないとだよなぁと思って。…明日、ごめんな』
「なんだ、別に気にしなくていいって。転けて怪我でもしたら大惨事だろ」
もう春大まで時間がない。だからこんなわがまま、言っちゃダメだ。
『…本当は、俺も会いたい。準太のことすげー抱き締めて、キスして、押し倒して突っ込みたい』
「身も蓋もない言い方やめろ!」
『事実じゃん。…あー、会いてー」
本気で悔しそうな榛名の顔を思い浮かべ、俺はこっそり笑う。
…こんなにも近くに感じる。
榛名は来てくれないけど、それを悔しがってくれてる。
それだけで、十分幸せだ。
だって、15分の距離は、この雪が融ければ簡単に埋められる。
いつだって、榛名の心はすぐ傍だから。

「…本当は、お前と一緒に過ごしたかった。けど、いいんだ」
次会うときに、きっともっと嬉しいから。
『……準太、誕生日おめでとう。…愛してる』
耳元で、榛名の甘い声が聞こえた。

あとちょっとだけりない距離
(会えば簡単に埋められる)

20140202

実は、準太の誕生日をお祝いするのはサイト作って初めてです。
当サイトのメインヒロイン(笑うところ)なのに…。
榛準ちゃんをちゃんと書くのが久々すぎてなんか色々アレなので豪速球とシンカー顔面に投げられても甘んじて受けようと思います。
榛準の家がチャリで15分なのは連載の設定ですが、気に入ってるのでゴリ押し。ちなみに利央の家は桐青挟んで反対側とかだと私が嬉しいんです。



[back]