小説 | ナノ


(流歌様へ/キセ黄)

WC開始直前の東京、誠凛高校。
今日はバスケ部の貴重なオフ。にも関わらず、黒子テツヤと火神大我は体育館に集合していた。
きっかけは、昨日の夕方黒子の携帯に入った一通のメール。
かつての主将からかつてのレギュラーへ。一斉送信されたそれには、誠凛高校体育館に集まるようにとの指示。
他校の生徒がどうして誠凛の体育館を自由に使えるのかとか、どうしてここなのかとか、そもそも何の用なのかとか。
聞きたいことはたくさんあったが、彼の指示に逆らうのがどれだけ愚かなことかは経験上よくわかっている。
返事を返そうとしたら、マジバに一緒にいた火神に内容を見られてしまい、自分も行くと言い張ったのだ。
…面倒なことになりそうで、もちろん断ったのだが。今朝、最寄り駅のホームに降り立った黒子が目にしたのは、
「キセキの世代…ぜってーぶっ倒す…」
試合でもない、それどころか部活ですらないのに、眠れなかったのか目をギラギラさせ。
一応私服姿だが、明らかに運動を前提とした格好を身にまとった現チームメイトだった。
そうなれば、もう来るのを止めることなどできそうになく。
どうなっても知らないふりを決め込もうと思いつつ、通学路を歩く。
待ち合わせ時間にはまだ早いが、他校生を先に入らせるのはまずい。
さすがにこの時間ならまだ誰も来て…
「あ、黒子っち、おはよっス!…あれ、なんで火神っちもいるんスか?」
……いた。
校門前に立って、こちらに手を振っている彼。黄瀬涼太。
今日が平日なら、きっと女の子に囲まれていただろう。
「早いですね、黄瀬君」
「へへ、黒子っちに早く会いたくて来ちゃった☆」
…彼女か。とツッコミたくなるのをこらえる黒子の横で、火神は黄瀬を睨む。
「なんスか火神っち…?」
「…黄瀬、勝負しようぜ」
「えー、今スか?」
「俺はお前らを倒すって高校入ったときから決めてんだよ!まずはお前だ!」
「…火神っち、俺ならちょろっと倒せるって思ってるっスね…。別にいいスけど」
じゃあ、体育館行こう。
そう言ってウインクと共にジャケットを脱いだ黄瀬を見て、またひとつ黒子はツッコミを飲み込んだ。
何で誠凛生でもない君が当然のように先に立って体育館に向かっているんだ。

体育館を開け、部室や倉庫を開けたりボールやゴールを準備したり、と三人でやっているうち、赤司が来た。
いきなり運動は危ないからと一応アップしている黄瀬と火神を横目に見ながら、仕方なく黒子は事情を説明する。
「面白そうじゃないか」
介入する気はないらしく、彼は邪魔にならない位置に座る。
「テツヤ、どちらが勝つと思う?」
「…テクニックやパワー、スピードにそれほど差はないと思います。でも…」
かつて黄瀬にパスを出していた。今は火神に出している。そんな、黒子が出す答えは。
「…火神君が勝つと、僕は思います。彼の成長は凄まじいですから」
そう言った黒子に、聞いた赤司は目を細めて笑った。

「じゃあ1on1、3本先取した方が勝ち!」
続いてやってきた桃井が真ん中に立ち、ボールを持って試合開始の笛を吹く。
──それから先は、無音だった。
ボールの弾む音、バッシュの音、呼吸音とかけ声。聞こえるのはそれだけだ。
だって、何も言えない。
こんなの、見て。何を舌に乗せようとも、それは場違いになる気がして。
「火神は確かに凄いね。…でもね、テツヤ」
涼太はもっと凄いだろ?
その言葉に、黒子は頷くしかなかった。

思った通り、火神は凄い。実際黄瀬はジャンプには全くついていけてない。
それでも。
「よっしゃ!これで2-0スね!」
…しばらくぶりに見た彼は、もっと凄い。

あぁ、と黒子は嘆息する。
わかっていたことなのに。彼の普段の態度がそれを信じさせないけれど。
キセキの世代。十年にひとりと言われる逸材の5人。
一番下っ端を名乗っていても、黄瀬は紛れもなくその一員で。
──やっぱり彼は、天才だ。

re-recognition
(改めて、認識する)

20130719

もうお待たせとかいうレベルじゃない。流歌様すみませんっ!
しかもこのクオリティである。三人称難しいとか言いながら気付けば三人称で書いてる上、キセ黄というリクエストなのに出てるのが赤司様と黒子っち、桃井ちゃんと火神という謎メンツ。しかも天才だと再確認してるの黒子だけだし…。



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