小説 | ナノ


(緑黄)


昨日から行われている誠凛、海常、秀徳の三校合同合宿。
その宿泊場である都内の宿舎で、三校の生徒たちは非日常を目の当たりにしていた。

この場に集まっているキセキの世代は、黒子の他にふたり。
そのふたり…緑間真太郎と黄瀬涼太は、他の部員達の目には不仲に映っていた。
練習中も練習後も、顔を合わせれば言い争い。
正確には、緑間が一方的に罵倒しているようだったが。
お世辞にも仲良くは見えなかった。
だから、不仲なのだと思っていたのに。

「黄瀬」
「あ、緑間っち。おはよ」
三校分の朝食が並ぶ大広間。
半分ほど集まってきているそこに入ってきた緑間が、すでに座っていた黄瀬に声をかける。
その顔は些か不機嫌そうで、だったら話しかけなければいいのに。というのがその場にいる全員の見解だ。
対した黄瀬は普段通り、寝起きのためか少し赤い頬で微笑み、挨拶を返した。
…そこまでは、受け入れられる光景だった。
のだけれど。

「…!?ちょ、真ちゃん…」
黄瀬の隣に腰かけた緑間を見て、高尾は焦ったように声を上げる。
確かに席は自由だ。だが、三校は三つの大テーブルに自然に分かれて座っている。
人数の関係で何人か誠凛のテーブルに座っている他二校の部員もいるが、海常生でほとんど埋まっているそのテーブルに座る意味が高尾にはわからない。
なんとか穏便に、と気を揉んでいた高尾は、その次の瞬間言葉を失った。
ぽすん。
箸で皿の上のものをつついていた黄瀬の頭を、緑間が自分の方に倒したのだ。
高尾と、彼と同じようにはらはらしながら彼らを見ていたその周辺だけが静まり返った異様な光景を、しかし緑間は全く気にしていないようで。
そのまま、頭を乗せた肩と反対側の手で、黄瀬の前髪をかき上げて額に触れた。
「…やはり、熱があるな」
「えー、これくらい大丈夫っスよ」
「バカめ。だから無理をするなと言ったのに」
内容はいつも通りだが口調はいつもより柔らかく、頬に触れる指も大分優しく見える。あの、緑間が。
対する黄瀬も、熱があるということを差し引いても、たくさんの視線が集まる中で無防備に緑間にもたれている。普段のプライドなどどこにも見えない。
それぞれの学校で見てきた彼らと、昨日一日見てきた二人の関係を知っている周りからすれば、それは立派な非日常だった。
昨日の不仲な彼らは、どこにもいない。
…というかそもそも、誰も何も言っていないのに、というか誰ひとり気付いてすらいなかったのに、体調を崩していることをすぐ気付くこと自体が意外すぎるが。

「食欲がないのだろう?後で旅館の人に何か作ってもらえばいい」
「…でも、練習したい、ス」
「バカめ。今日は一緒にいるから、大人しく寝てるのだよ」
そんな周囲の思いを知ってか知らずか。
緑間は黄瀬の頭を優しく撫でているし、黄瀬は目を細めて緑間にすり寄っているし。
完全な二人の世界が、そこにはあった。
いつしか周囲の気まずさは部屋中に伝播し、部屋全体が無言に支配されている。

「ういーっす」
「おはようございます」
そのとき、襖が開いて、まだ来ていなかった誠凛一年コンビが入ってきた。
火神と一緒な上、静かな中ではいくら黒子でも目立つ。
行き場を失った目達は縋るように、もうひとりの帝光出身者に目を向けた。
「どうしたんですか?」
「なんか、朝食から超ショックな出来事が…」
「伊月黙れ。黒子、あれ」
見た方が早いと、日向はその非日常に指を向けた。
いつしか黄瀬は緑間の膝枕で横になっていて、緑間は携帯画面を眺めている。時間的に今日のおは朝占いの結果チェックだろう。
火神は俺寝ぼけてるのか、と目をこすっている。大差ない反応だ。
しかし、黒子は普段と特に変わりない。
「緑間君、おはようございます」
それどころか、普通に緑間に声をかけはじめた。
「お、おい黒子…?普通に声かけるってお前…」
「え?何がですか?」
先輩達の声に、黒子はきょとんとしたように首を傾げる。
「だって真ちゃん、今日変…ていうか黄瀬と仲良すぎっていうか…」
いつの間にか誠凛のテーブルまで来ていた高尾が、部屋中の心の声を代弁する。
「何を言ってるんですか、高尾君。緑間君も黄瀬君も、いたっていつも通りですよ」
「は?」
「だってふたりは、恋人同士ですから」

部屋の空気が、止まる。
「…黒子、余計なことを言うな」
渦中の人物が、少し不機嫌そうに声を出した。
「あ、そういえば隠してましたね。でも、僕達は散々あてられたんですから」
それに、黒子は中学時代の日々を思い出してげんなりしながら答える。
でもまぁ、今となっては。すっかり慣らされたふたりの雰囲気がないほうが寂しい、なんて感じているのだけれど。

「ええと、つまり…?」
未だ困惑中の高尾に、黒子はこともなげに答えた。
「変だったのは、昨日の不仲な態度です。だから…」

これが日常なんです
(あのふたりと、僕らにとっての)

20130607

瞼の裏に星雲を様に提出。
日常と非日常、という題でしたが添えてるか微妙。
男同士の膝枕が好きなんですよ私。



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