(榛←準←利) 「準さん、」 唇に乗せた声は、大好きなひとの名前。 少し震えたそれに、目の前の彼が振り向く。 「なんだ、利央?」 微笑みながら、俺の名前を呼ぶ。 ひとつ上で、だけど俺より少し小柄で。(そう言うと蹴られるけど) 男の先輩に対して言うことじゃないけど、かわいくて。 「好きだよ」 口癖のようにそう言うのはいつものことだけれど、ちゃんと気持ちは込めてるつもり。 準さんも、それをわかってる。 だから、ちょっと困ったように笑って。 「ごめん」 そう、世界一残酷な謝罪を、呟くんだ。 ごめん、と告げれば、利央は笑っているけれど。 一瞬だけ、辛そうな顔をする。 俺はまた、気付かないふりをする。 …わかっていることを、たぶん利央は知っている。 いつの間にか背丈を追い越していった年下の幼なじみは、アホだけど悲しいほどに敏感だから。 ……だから、きっと気付いてる。 俺の気持ちがたぶんずっと、自分の方を向かないって。 それが、どちらを向いているのかさえも、おそらくは。 不毛な恋を、していると思った。 利央も、俺も。 榛名の隣にはとっくに別の女がいることを、俺は知っている。 榛名に別れを告げられて、もう半年が経過していた。 交わらない矢印は 20120628〜20121010 |