(利準) ♪天ノ弱/164 「ねぇ準さん…俺達、友達に戻ろ?」 その言葉にとりあえず、友達じゃなくて後輩だろお前、と蹴ろうと思ったけど、利央の真剣な顔を見たらそれが冗談ではないことがわかった。 それに異を唱える理由なんかない。半ば押し切られるようにして、利央から一方的に始まった関係だった。利央がやめたいと言えば、頷いてすぐに終わらせられる。 …そのはず、だったのだ。 だから俺は、この胸に重苦しく乗っかる変な気持ちを無視して、頷いた。 半ば同棲状態だった利央の家を出て、自分のアパートに戻ってからも、利央の声を聞かない日はほとんどなかった。 毎日のように鳴る電話。届くメール。 『準さん元気?ご飯食べてる?』 それに、見えもしない笑顔を作って応える。 「あぁ、大丈夫だ。心配性だな利央は」 嘘。きっと、顔を見れば見破られるほどバレバレの。 全然元気なんかじゃないし、飯だってほとんど食ってない。お前がいないのに食えるはずないだろ。 そんな言葉は、もう言えない。 いや、出会った頃から一度だってそんなセリフを吐いたことなどない。俺の愛の言葉は、反対言葉ばかりだった。 そんな俺に、いつでも利央は優しかった。ばかみたいにまっすぐ、愛を奏でてくれた。 きっとあのときも、俺が引き止めたなら利央は笑ってくれたと思う。今でも俺の隣にいてくれたはずだ。 …なんて。できもしないくせに。ばかな仮定だ。 「…利央」 『ん?なに?』 利央はモテる。たくさんの女の子から、好きなのを選べる。 だから、俺なんかに縛られる必要なんてない。 でも、俺には。きっともう、誰もいない。 何も見えない。何も聞こえない。利央以外の全部が、俺にとって無意味なものだ。 告げたい思いはたくさんある。言いたい言葉は数え切れない。でも。 「……なんでもねー」 『なにそれェ。変な準さん』 ──俺、まだお前のことが。 その言葉を、言えない俺はきっと。 天性の弱虫だ |