ログ | ナノ


(火黄)

俺が、いつになく真剣に、彼の名前を舌に乗せたからだろうか。
驚いたように目を丸くする。
…その顔すらも、愛しくてたまらない。
でも、もうきっと。そんな無防備な顔を見ることは叶わない。
だって、俺はここに。彼との関係を終わらせるために来た。
だから、自らのその気持ちにすら目をつぶるように、言葉を続けた。
「俺達、終わりにしよう?」

大好きだった。
家族、バスケ、帝光の仲間、海常の仲間。大切なものはたくさんあって、それでもそこに順位をつけるなら、間違いなく火神っちはいちばんだった。
…なんて。過去形で語ってみても。この想いは消えてはくれなくて。
……やっぱり今でも、それは変わらない。
だけど、いや、だから。
俺は彼に、笑って最後の嘘をつく。

「そろそろ、飽きたっしょ?俺もっスよ」
(飽きるわけない。知れば知るほど、好きな気持ちは増すばかり)
「俺らも三年だしね、そろそろエース同士だってこと、自覚しないとっスよ」
(その座を捨ててもいいと思えるほど、あんたの隣は心地いい)
「それにやっぱり俺らも男だし、女の子と付き合いたいっしょ?」 
(嫌だ。火神っちが、知らない女になんか取られるのは)
ぐるぐる回っては痛みを増す胸の内側など悟られないように、鉄壁の笑顔で隠す。
それでも、その瞳を見たら、全部溢れてしまいそうで。
目だけは、どうしても合わせられないけれど。
「黄瀬、」
「もう、会わない。…ばいばい、火神っち」
彼の言葉を聞くのも同様で、だから遮るように最後まで笑って言い切って。
背中を向けた。
これ以上一緒にいたら、何も言わない自信がないから。

大好きだった。いちばん大切だった人。
今でも変わらず、俺のいちばんであり続ける人。
きっと、これから先だって。
その人の幸せのためになら、俺は何でもしてみせる。
そう、この嘘は幸せのため。彼の、そして俺自身の。
そう言い聞かせても、涙はしばらくは、止まってくれないみたいだ。


幸せになれるをつく


20130511〜20130821
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -