(笠黄) 『今日で終わりだな』 赤司っちが言った言葉に、返事を返すものは誰もいなかった。 とっくにあの場所は、壊れていたから。 それを悲しむ資格は、俺にはなかった。 だって壊したのは俺達。キセキの世代と称される俺達だったから。 『また、来年だな』 赤司っちは、少し嬉しそうだった。 何も言わなかったけど、きっとみんなも。 俺だって、本当は少しだけ。 彼らと戦えることが嬉しかった。 仲間としているより敵としている方が、彼らの中での俺の存在価値が、遥かに高い気がしたから。 『今までありがとう、さようなら』 帝光中バスケ部主将としての赤司っちの最後の言葉にも、やっぱり返事は何もなかった。 「黄瀬?」 少し、昔を思い出していた。 笠松先輩に顔を覗き込まれて、我に返る。 「あ、スマセンっス…」 「ずいぶん考え込んでたな。何かあったのか?」 「…ちょっと、…中学のこと、思い出して」 例えば今が部活中なら、この言葉は言わずにはぐらかしただろう。 部の主将である彼を相手にしたなら。 だけど今は帰り道で、目の前の笠松先輩は俺の恋人の笠松先輩だ。 だから、想いをこぼす。 「…さよならが、怖いんスよ」 また会うことはできる。黒子っち、緑間っち、青峰っちに桃っち、紫原っち、赤司っちにも。 それに、さよならがあったから今がある。火神っちが俺達のライバルとしているのは、黒子っちが誠凛に行ったから。 俺も出会った。海常のみんな。森山先輩、小堀先輩、早川先輩、中村先輩、他のみんなにも。 そして、笠松先輩に。 だけど、始まりがあれば終わりが来る。 来年の今頃、ここに。俺の隣に笠松先輩はいない。 仕方がないことなのは知ってる。それが悲しさばかりでないことも。そして、繋がりが完全に切れてしまうわけではないことも。 それでも俺は、怖いと感じてしまう。 「…黄瀬」 そんなことをぽつぽつ漏らしていると、名前が呼ばれて。 同時に、左手にぎゅっと、優しい感触。 「確かに永遠なんてねぇよな。俺も信じてない。でもな、」 今は、ここに。ちゃんとあるだろ? いつになく優しい声に、自然に笑顔になるのを感じる。 …そうだ。…今、ちゃんと笠松先輩はここにいる。俺の隣に、ちゃんと。 それだけで十分だ。それだけで、俺はちゃんと幸せになれる。 それはきっと、あの人達と出会い、あそこで別れたおかげだ。 さよならの重さを知ってるから |