(榛→←準) 「どーしよう、秋丸ー…」 「…どうしたんだ、榛名」 「高瀬が可愛い」 …またか、と俺はうんざりする。 高瀬、と可愛いと。 最近幼なじみの口から出る単語は、もっぱらこれだ。 先日、俺達の高校は練習試合をした。 相手は同じ県の強豪私立。 そこのエースは俺達と同じ二年生で、名前を高瀬準太といった。 同い年ということもあり、休憩時間に少し話をして、アドレスなんかも交換したりして。 …その、後だった。 『どうしよう秋丸!俺、あいつに惚れたかも!』 幼なじみがおかしくなったのは。 確かに、綺麗な顔をしているとは思った。 身長も結構あって、スタイルもよくて。 だけど、理由を聞いたところ、榛名は言ったのだ。 『可愛いから』だと。 …まったくもって理解できない。てか、可愛いって言われて男は普通喜ばないだろ。 「榛名ー。そんなに好きなら告白しちゃえば?」 ぶっ。 隣で牛乳(ちなみに俺んちの冷蔵庫から勝手に出したやつ)を飲んでいた榛名が盛大に吹き出した。 「な、なななっ何言ってんだよ秋丸おめーばっかじゃね!?」 一瞬にして沸騰した榛名が、涙目で俺の腕を握る。 「ちょ、痛いから!榛名!離せ!」 投手の握力考えろよ、と思うも、なかなか離してくれない。 榛名元希というやつは、こうなのだ。 先輩達なんかは恋愛にも俺様で強引なやつと思っているようだが、告白どころか話すこともままならないようなやつ。 宮下先輩のときも、それまでも、いっつも俺に相談しては理不尽に怒ったり暴力振るったりして。 今回も、例にもれずそうらしい。 告白なんてしたこともない榛名は。 ひとり勝手に落ち込み始めた。 「とられちゃっても知らないよー?高瀬、モテると思うよ」 「だって…せっかく友達になったのに、キモイとか思われたらどうすんだよ!」 純情なだけではなく、恋愛方面にはてんでネガティブな榛名は、うつむいたまま小さく呟く。 それこそ大河先輩なんかが見たら、誰だお前?って聞きそうな。 くすり、と小さく笑えば、なに笑ってんだよ!と蹴られた。 そのまままたうつむく榛名に、蹴られた腰をさすりながら、今度は声を出さずに笑って、携帯を開いた。 さっき来てたメールに、返信するために。 なー、榛名。 意外と、いい方向に転がるかもよ? 『なー、俺が榛名のこと好きだって言ったら、あいつどう思うかな?』 ちょっとだけ、頑張ってみたら、世界が変わるかもよ。 あと少しの勇気で 20121010〜20130301 |