05.
「で、どうだったんだヨ?初めてのデートってやつは」

「聞いちゃう?聞きたいの?荒北そんなに興味ある?」

「やっぱいいわ、なんでもな「もうすっっっっっっっごい楽しかった」

「いいって言っただろウゼェ!」


うざいと言われようと何と言われようと、先に話を振ってきたのは荒北だ。昨日の新開君とのデートを思い出してみれば、この先一年くらいは何も幸福なことがないくらい幸せに頑張れるんじゃないかと思えてしまう。それくらい、新開君とのデートは楽しかった。
あの後、動物園内をぐるぐるのんびりまわって分かったのは、新開君はとにかく優しいということだった。絶妙のタイミングで「疲れてない?」なんて聞いてくれるし、冷たい飲み物をさりげなく買って来てくれたりだとか。帰り道も車道側は絶対私に歩かせなくて、転びそうになったらさっと手を出してくれたりなんかしちゃって。

極め付けはこれだ、携帯についたストラップ。小さいけど、もふもふしたウサギのマスコットが可愛い。昨日まではついていなかったそれを見て、荒北は眉間に皺を寄せた。


「…何ソレ、ぶっさいく」

「不細工?荒北の自己紹介?これはウサギちゃんだよ〜、帰り際に新開君が買ってくれたんだよ〜」


ウサ吉のおかげで、緊張しなくなって新開君と話せるようになった。私にとって、ウサギはただの可愛い存在ではなくなってしまったのだ。ウサギ様である。新開君と話せるきっかけをくれて、本当にありがとうございます。

折角の初デートだし、そう言って新開君が買ってくれたストラップは一気に私の宝物になってしまった。


「新開君ってさ、ほんとに優しいよね。気配り上手だし、かっこいいし、欠点とか一つもないんじゃない?」

「ハァ?お前、それマジで言ってンの?」


信じらンねェ、荒北はそう言ってため息をつく。信じられないって何だ、自分と新開君を比べた時の格差か。思わずツッコミそうになったけど、そんなことを言おうもんなら女の子相手だというのに容赦のない罵倒が飛んでくることを長年の付き合いで私は知っている。喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んで、荒北の反応をそのまま待った。


「…いい奴なのは否定しないケドさァ、アイツ結構抜けてるとこもあるぜ?」

「抜けてる?」

「そーそー、本気なのかボケかましてんのかわかんねェようなとこもあるし、気配り上手?とかさァ。お前別人と付き合ってンじゃネ?」

「…そうなの?」


そうだって言ってるじゃん、荒北ははっきり言ってのける。荒北曰くの新開君は、可愛い表現をすると天然らしい。私が知っている新開君は本当に完璧超人だから、そのギャップには素直に頷けないわけで。ああでも、荒北の方が付き合いは圧倒的に長いのだから、それが新開君の本当の姿なんだろうか。


「…どっちもかっこいいから、問題ないかな…」

「結局惚気かヨ」


私が悩んだ末に出した結論は、あっさりと一言で流されるてしまった。






「…っていう話をね、今日荒北としたんだよね」


新開君とはクラスが違うし、放課後はお互い部活で忙しい。だからこうして一緒にお弁当を食べたりでもしない限り、なかなか会話をすることは出来ない。

初めて新開君からお弁当を一緒に食べようと言われた時は裸足で逃げ出したいくらいの憩いだったけど、やっぱり私は新開君にとことん弱い。「駄目か?」なんて残念そうに聞かれてしまえば、断る術なんて一切持ち合わせていなかった。早く誤解を解いてしまわなければ、何度も何度もそう思っていたのに、気が付けば私と新開君がお付き合いを始めてから一ヶ月が経とうとしていた。

最初に比べると、会話だってある程度出来るようになってきた。人生できっと関わりになることはなかったであろう超絶イケメンと、こうして並んでお昼を食べられるくらいにまでなったのだ。人間の順応性というものは恐ろしい。


「おめさん、本当に靖友と仲良いなぁ」

「仲良い、かな?一年の時からずっとクラスが一緒っていうだけだよ。それに、新開君の方が仲良いんじゃ…」

「俺は、仲がいいっていうよりチームメイトだから。ちょっと違うかな」

「はー…なるほど…」


チームメイト。なるほどかっこいい。
詳しくは知らないけど、うちの自転車競技部はそれはそれは強いらしい。その中で一緒に頑張っている仲間となれば、友達云々よりも特別な絆で結ばれていたりするんだろうな。それをさらりと言えちゃう新開君はかっこいい。というより、もう最近の私は駄目だ。新開君が何を言ってもかっこいいという域に入っている。
これはよろしくない、と頭を抱えていると、視界に入った新開君も私と同じく難しそうな顔をしていた。


「…どうしたの?」

「いや、妬けるなぁと思って」

「え、妬くって、何が、ええと」

「おめさんと靖友に嫉妬してるんだよ。……多分俺は、おめさんが思ってるような完璧な奴じゃないよ。やきもちもやくし、面倒な男だぜ?」

格好悪いだろ?新開君はそう言って照れくさそうに笑った。
…くそう。卑怯だ。ずるい。こんなの、ずる過ぎる。かっこ悪い?とんでもない、むしろ私の心臓は鷲掴み状態だ。頭にうまく酸素が回っていないんじゃないかっていうくらいくらくらする。恥ずかしくて思わず視線を反らすと、新開君がくしゃりと私の頭を撫でた。


「靖友と仲良いのはさ、いいんだ。…ただ、あんまり可愛いところ俺以外に見せるなよ」

「かっ、かわいくない、可愛くないです大丈夫です!」

「可愛いよ」


みょうじさんは、可愛い。
はっきりと新開君がそんなことを言うもんだから、いよいよ私の心臓は限界を迎えてしまった。


「この前動物園行った時もさ、私服可愛かった。…あれ似合ってたぜ。またどこか行こうな」

「…最初、微妙な反応してなかった?」

「褒めようと思っても、うまく言えなかったんだよ」



…新開君が待ち合わせ場所に来た時、ちょっと微妙な反応をした事を思い出す。上から下まで見た後に、急に黙ってしまった新開君。……自惚れていいのでしょうか。あれはもしかして、ちょっと照れていたとか、そういう、反応だったのでしょうか。その考えに行き着いた途端、心臓だけではなく頭まで限界を迎え思考を停止する。

多分、今の私はものすごく不細工な顔をしている。耳まで熱いし、真っ赤になっているんだろうな。それを見られたくなくて背中を向ければ、新開君はまた笑って「可愛い」なんて言うのだ。神様お願いしますこの色男をどうにかして下さい。そんなことを切に願った午後は、穏やかに時間が過ぎていく。
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