04.


失恋仲間同士、その言葉がぐるぐると脳内で巡り続ける。
つまり、私だけじゃなくてこいつも失恋をしたばかりってことかな。だから、あんな場所にいたのかな。
……この話の流れでいくと、こいつの失恋相手はたった一人しかいない。

「失恋仲間?……えっやだ、まさか新開のこと好「何でそっちになるんだヨ!!常識的に考えろボケナスが!!」

私の渾身のボケは、見事に切り捨てられた。男の剣幕に怯みそうになりつつも、ここで逃げたら負けだ。涙を手の甲で拭って、自分よりも高い位置にある目つきの悪い三白眼を睨み付ける。

「……何よ、アンタ新開の彼女のこと好きだったの?」
「そうだケド、悪い?」
「悪いに決まってるじゃない、アンタが頑張ってれば新開とあの子くっつかなかったかもしれないでしょ!?何トロトロ掻っ攫われてんのよ、そんな肉食獣みたいな面して!」
「お前もうちょい言葉選べよ!!つーかそれ言うならお互い様だろうがよ!!」
「うっ」

これは、痛い所を突かれてしまった。
一番仲の良い友達というポジションに甘んじてのんびりしているうちに、どこの馬の骨とも知れない女に新開を獲られてしまったのは事実だ。…いや、獲られるも何も、新開は私の物じゃないんだけど。当たり前過ぎるその事実を再確認して、無意識のうちに盛大に溜息が零れた。

「ああもうほんと最悪…なんでこんなのにバレてんの…」
「…最悪ばっかってわけでもねェと思うケドな」
「……どういうことよ」
「お互いのみっともねぇとこバレてんだし、遠慮する必要ないだろ。いい愚痴相手になれると思うケド?」

どうよ、なんて。そんな風に聞かれて、思わず押し黙る。
なれる訳ないでしょ馬鹿じゃないのと切り捨ててしまうのは簡単だったけど、それがすぐに出来なかったのは、少なからず同意してしまうところがあったからだ。

女子の情報網は怖い。友達を信用していないわけじゃないけど、いつ誰の口から、うっかり私が新開の事が好きだというのがバレるか分からない。それが新開の耳に入ってしまえば、仲良しこよしのお友達という関係が崩れてしまうんじゃないか。…そんな事を考えていたから、私は新開が好きだという事を誰にも話していなかった。
悔しいことに、非情に不本意ながら、…今の私は、この辛い心境を共有できる誰かが欲しかったのだ。

「…ねぇ、名前は?」
「人に名前聞く時はまず自分から」
「いちいち癇に障る男ね!顔面だけじゃなくて性格もひん曲がってんの!?みょうじなまえよ、ハイこれで満足!?」
「お前も、毎回大声出す癖やめた方がいいと思うぜ。…荒北靖友。どーぞよろしく」

そう言って、男…改め荒北は右手を差し出した。その手を取れば、荒北は少しだけ笑った。(ような気がした)

失恋をした者同士仲良くしたって、結局傷の舐め合いだ。惨めさが増すだけかもしれない。
だけどこの時の私は、荒北の存在に確かに救われたのだった。


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