03.


「あ り え な い ……!本当に、本当にありえない…!」

何がありえないかって、数え出したら本当にキリがない。
まず最初に、新開に彼女が出来たという事実。――何度考えたって、やっぱり悔しい。
次に、それで私が泣いてしまったという事実。――何で私が、泣かなきゃいけないの。悔しい。
最後に、みっともなく泣いている現場を目撃されたという事実。――しかも、見ず知らずのガラの悪い男に!悔しい!!

「もう嫌本当に有り得ない!ムカつくーー!!!」

あの後、呑気に挨拶をかましてきた男を無視して私は校舎にダッシュで戻った。そのまま女子トイレに駆け込んで、ひとしきり泣いた後今に至る。何よ何よ何よ、新開に選ばれなかった私は乙女チックに泣くのも許されないって言うの?
ようやく涙が止まった後、個室から出て鏡と向き合う。そこに映っていたのは、目を真っ赤に腫らした不細工な女だった。鏡に指先で触れて、ゆっくりと輪郭をなぞる。

「……ぶっさいく」

笑えるくらい、不細工だった。こんなの、新開に選ばれなくって当然だ。
泣き腫らした目を見ていると、また涙がこみ上げそうになって鼻の奥がツンと痛んだ。こんな時は一人で塞ぎこむよりも、何人かでぱーっと騒いでしまった方がいい。
誰か暇そうな人いたかな、一緒にカラオケとか行ってくれないかな。
そんな事を考えながら制服のポケットに手を突っ込んで、……おかしい。ない。携帯が、ない。
ポケットを裏返しても、辺りを見回しても、残念ながら携帯は見当たらなかった。
もしかして、さっき落とした…?記憶を掘り起こしてみれば、心当たりは一つだけだ。
体育館裏。さっき、失礼な男と遭遇した場所。戻ってアイツとまた会うのは嫌だったけど、携帯がないのはものすごく困る。こちとら現代っ子代表の女子高生だ。あの連絡ツールがないだけで、日常にとんでもない大打撃食らうだろうことは簡単に予想出来た。
迷って迷って迷った結果、アイツがもういなくなっている事を祈ってトイレから一歩踏み出した。さっと向かって、ささっと回収して、――そんな事を考えていたのに。

「あ」
「あ」

声が重なる。廊下に出た瞬間、私の視界に最初に飛び込んできたのは一番会いたくない人物だった。廊下を歩いてどこかに行こうとしていたそいつと、ばっちりしっかり目が合ってしまう。


「なんでアンタがここにいるの!?」
「別にどこにいようとオレの勝手だろうがヨ!!何様だテメェ!」
「信じらんない女の子相手にその言い方何!?顔が不細工だと中身まで荒むの!?ていうか邪魔!どいて!私携帯探しに行かなきゃいけないの!」

進行方向塞ぐように立っていた男をおしのけて、再び体育館裏にダッシュ。――しようとしたところで、

「おい、ちょっと待てって」

男に引き留められて、振り返る。多分私、今すごく嫌そうな顔してるんだろうな。自然と顔の筋肉に力が入って、表情が歪むのを感じた。

「……何よ」
「携帯ってさァ、これ?」
「あっ、それ!」

男がポケットから取り出したのは、紛れもなく私の携帯だった。
うさぎのストラップがついたiphoneを片手に、男はものすごく厭味な笑顔を浮かべる。

「お礼は?」
「はァ?」
「拾ってやったんだから、ありがとうくらい言うべきだろ」
「はぁあああああああああ!?」

何よこいつすごくムカつく。わざわざお礼要求してくるとかどんだけよ!…と思いつつも、言われた事は正論だ。どんなにムカつく相手でも、拾ってくれたという事実は変わりない。
両手を差し出して、「アリガトウゴザイマス…」とお礼の言葉を絞り出す。自分でもびっくりするくらいの棒読み加減だったけど、意外に男はそれで納得してくれたらしい。あっさりと、携帯は私の掌に収まった。
何よこれ、ちょっと拍子抜けするじゃない。もっと一悶着あるのかと思ったのに。

「……あのさ」
「なに」
「…私が泣いてたっていうの、誰にも言わないでよね。絶対よ、誰かにバラしたら末代まで祟ってやるから」
「怖っ!もう少し可愛い頼み方できねェのかよ!」
「何でアンタ相手に可愛こぶりっこしなきゃいけないのよ!時間の無駄!労力の無駄!」
「可愛くするのは新開の前だけってか?そりゃご苦労様ァ」
「!」

そうだ、さっき私が新開の名前を呼んで泣いていた事をこいつは知っているんだ。思いっきり図星を指されて、顔に熱が集まるのを感じた。やっと止まってくれたと思っていた涙も、再び簡単に流れ始める。一度緩くなった涙腺は、どうやら今日はちょっとした刺激で決壊してしまうらしい。ぼろぼろと涙を溢す私を見て、男はこっちが驚くくらい狼狽えていた。

「なっ、泣くなよ!オレが泣かせてるみてェだろ!」
「その通りよバカァ!うえっ、 なっ、なんで、アンタみたいなのに見られて、しかも新開のこと、バレてんの…も、最悪…っ。からかえばいいじゃないバラせばいいじゃない、絶対絶対呪ってやるんだから!」
「あー……落ち着けっての。別に誰にも言わねェよ」
「信じられない!」
「即答すんな!!……だって、お前が泣いてなかったら、多分オレが泣いてたぜ」
「え?」

思いもよらない言葉に、顔を上げて目の前の男を見つめる。

「…オレも、お前と一緒。失恋仲間同士、ヨロシク」


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