要するに、君が好き


こちらと同じ幼馴染設定)

地元が一緒といっても、私と隼人が合わせて帰省するということはほとんどなかった。隼人は毎日毎日飽きもせずに自転車に乗ってばっかりだったし、強豪校となれば練習だって毎日大変だったのだろう。長期休みはあってないのと同然で、いつも私一人で地元に帰るのを少し寂しく思っていた。

だから、長い間一緒にいたというのに、こうして二人で肩を並べて電車に揺られるのは実はほとんど初めてに等しい経験である。――しかも、私達の間にある関係はもうただの幼馴染じゃない。恋人同士。甘い響きを持つそれには未だに慣れないけど、感じるくすぐったさは居心地がわるいものではなかった。照れくさいような、恥ずかしいような。でも嬉しい。そんな複雑な気持ちである。

電車の窓の外に広がる景色を眺めていると、隼人が私の手に自分の手のひらを重ねてきた。突然のスキンシップに思わず肩が跳ねるけれど、嫌ではない。隼人は少し言い辛そうに口ごもりながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「…帰ったらさ、一緒になまえの家に行こう」

「うん、そのつもりだったけど?」

「そうじゃなくて。…おめさん、わかってないだろ。今までみたいにご近所づきあいの延長で会いに行くんじゃなくて、俺はなまえの恋人としておばさん達に挨拶に行きたいんだよ。娘さんとお付き合いさせてもらってます、ってな」

「こ、恋人!ですか!」

「何だよ、嫌か?」

「…嫌じゃない、です」

ならいいんだ、隼人はそう言って笑う。その笑顔を見るたびに、自惚れでも何でもなくて、隼人は本当に私が好きなんだろうなぁと実感させられる。

…告白をされた日、いつから私の事が好きだったのかと図々しくも質問をしてみた。そしたら隼人が大真面目に「ガキの頃からずっとだよ」なんて言うもんだから、赤面してしまったのは記憶に新しい。私が福富君を好きだった間も、福富君以外の人にふらふらしていた間も、隼人はずっと一途に私を想い続けてくれていたらしい。一応記憶を振り返る限り彼女もちらほらいた気もするけれど、長続きしなかったのはそういうわけかと納得してまた恥ずかしくなる。もっと早くに気が付いていれば、隼人との思い出を増やせたのかな。


「…もう一回、高校生やりなおしたいなぁ。……隼人と、制服デートとかしてみたかったかも」

「なまえ…」


普段は隼人が私をでろっでろに甘やかすから、私が甘える事はほとんどない。今の台詞は、私に出来る最大限に愛情表現のつもりだった。頬に熱が集まるのを感じながら反応を待っていると、隼人はあの日と同じように大真面目に言ってのける。


「無理だな。だって俺、放課後は毎日練習だったし」

「真面目に返さないでよ馬鹿!そこは黙ってときめいとくところでしょ!」




久しぶりに帰った我が家は、相変わらず何も変わっていなかった。――変わったのは、私と隼人の関係だ。

「いい加減、彼氏の一人でも連れて帰って来なさいよ」


帰宅早々いつものお決まりの台詞を溢したお母さんに、隼人が一歩前に進み出て頭を下げる。


「なまえさんとお付き合いさせてもらってます、新開隼人です。よろしくお願いします」


そう言ってのける隼人の笑顔は見ているこっちが恥ずかしくなるくらい幸せそうで、この人の手を取った事は間違いじゃなかったと、じんわりと胸の奥があたたかくなるのを感じた。


(1029 再掲)
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