01.



――失恋を、した。
それはもう見事に、救いようがないくらいに。

好きにはったのは、入学してすぐ。
あ、この人かっこいい。そう思ったのが最初で、単純な話が一目惚れだった。
それからは仲良くなりたくて必死で、彼が好きな物は私も好きになろうと努力した。

おかげで今じゃすっかり私も自転車馬鹿になりつつあるし、チョコバナナ味のお菓子を見かけたらついつい手が伸びてしまう。

モテるあの人の中でのその他大勢にはなりたくなくて、周りの女の子と同じように騒ぐ事はしなかった。友達でいようと、決めていた。
そうして、いつか。いつか、私のことを好きになってもらえたら。

…そんな淡い願いを、抱いていたけれど。
都合よく、好きな人が私を好きになってくれる未来なんてそう簡単には訪れないらしい。

私が夢見るヒロインを演じている間に、皆の新開隼人は、あの子だけの新開隼人になってしまった。




「ねえねえ、新開君彼女出来たらしいよ」
「はあ!? 何それどこ情報よ! 私聞いてないし!」

友達伝手に聞いたその噂は、あっという間に学年中に広まっていた。
新開はモテるけど、今まで彼女を作ったことなんてなかった。オレ、そういうのよくわからないから。いつだったか、新開はそんなことを話していた。
だから最初は信じられなくて、信じたくなくて。本人に真相を確かめることもせずに噂から目を反らそうと頑張っていたけど、どう頑張ったって好きな人の姿は視界に飛び込んでくる。それから当然、新開の隣に並ぶあの子の姿も。

どこかぎこちなさを感じさせる雰囲気は、恋人同士というには不自然さがあった。早く別れろばーか。そう思うのは仕方がない、私の性格が悪いわけじゃない。
…好きな人の幸せが私の幸せなんて、そんなの心の底から言える人がいるわけないじゃない。
好きな人には私を見て欲しいし、幸せにしてあげるのだって私でいたい。
いつか、チャンスがきたら。その時は、迷ったりしないで今度こそ新開に気持ちを伝えよう。

…しぶとく好機を狙い続けていたけど、その希望も消えたのは、つい先日。

見て、しまったのだ。中庭で後ろからあの子を抱き締める新開と、それに必死で応えようとしているあの子と。
……ぎこちなさも、不自然さも。まだまだあった。
だけどお互いを見る二人の目はすごく優しくて、それがどんな言葉よりも私の入る隙間はないんだと実感させられる。
私は、新開のあんな顔、見たことない。きっとこれから先も、新開が特別な表情を見せるのは、あの子の前だけなんだろう。

すとんと胸の中にその答えが落ち着いた瞬間、涙が一気に溢れ出した。
人はこんなに自然に泣けるらしい。勢いよく零れた涙は止まってくれる気配なんてなくて、ひたすら制服の袖を濡らしていく。

人に泣き顔を見られたくなくて、これ以上二人を見るのが辛くて、私はその場を後にした。
とにかく、人がいない所に行きたかった。一人で、泣かせて欲しかった。

走ってやって来たのは体育館裏。授業も終わった頃になれば、そこに人影はない。ここでなら、どれだけ泣いたって許される気がした。

「し、んかい」

震える声で、名前を呼ぶ。たったこれだけのことで胸の奥が締め付けられるくらい好きなのに、大好きなのに。

「しんかい、うえ、…っ、新開、」

ぼろぼろと零れる涙は、もう止めることは諦めた。その場にしゃがみこんで、そのままわんわん気の済むまま泣き続ける。こんなに泣いたの、いつ振りだろう。溜め込まれた涙は、今この時の為だったのかもしれない。

膝を抱えて泣きながら、思い出すのは新開のことだけ。
初めて名前で呼んでもらえた時は、夜眠れなくなるくらい嬉しかった。友達は名前で呼ぶもんだろ?新開はそう言って笑っていたっけな。友達でも、なんでも。新開に一番近い女の子は私のような気がして舞い上がっていた。
新しく出たお菓子はお互い買って交換なんかしてみたりして、ずっと食べられずに持っているのを新開に見つかった時はダイエット中と言って誤魔化したりもした。
涙を流して忘れてしまいたいのに、残念ながら泣けば泣くほど、新開と笑い合っていた日々がきらきら眩しく私の頭の中で繰り返される。

しんかい、しんかい。私ね、貴方の事が大好きでした。

心の中で一生言葉にならないだろう思いを告げて、ぎゅっと唇を噛み締める。
これからも、きっと私は新開を想って泣くんだろうな。いつか誰かほかの人を好きになれる日がくるまで、その日まで。迷惑はかけないから、ただ泣く事だけは許して欲しい。

そんな感慨に浸りながら、ふと顔を上げる。


「………… は ?」

「………… よォ」


…顔を上げた先にいたのは、ムカつく顔をした一人の男だった。

(0910)
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