11.
「ほーら、ウサ吉。飯だぞー、大きくなれよー」

「ウサ吉割と大きいよね?これ以上大きくなったら肥満体型になっちゃうよ」

「そうかな?」

「そうだよ!」


もしゃもしゃと美味しそうにキャベツを頬張るウサ吉は、他の世間一般のうさぎと比べると控え目に言っても大きい。新開君の愛情を注がれ過ぎたらしい。たゆんだお腹が気持ちよさそうだ。

新開君が私に興味を持ってくれるようになったきっかけであるウサギ様だから、崇め奉る勢いだけど…ああ駄目だ、やっぱり可愛がり過ぎはよろしくない。持って来たキャベツの半分をさっと後ろ手に隠すと、心なしか悲しそうな目でウサ吉が私を見上げてきた、ような気が、しなくもない。


「残念だったな、ウサ吉。みょうじさんお前の事嫌いなんだってよ」


ウサ吉を抱きかかえ、新開君が言う。嫌いなんて一言も言ってないよむしろ大好きだよ!慌てて抗議するけど、新開君は楽しそうに笑うだけだった。私が抱きかかえたら重量感溢れるウサ吉も、新開君の腕の中に収まっていると正常サイズに思える。うっかり追加のキャベツを差し出しそうになったけど、ぐっと堪えてウサ吉から目を反らした。


「これは愛です、愛なんです…。肥満だって、虐待って言われるような世の中なんだよ…!」

「冗談だって、だからそんなに悩むなよ。よかったな、ウサ吉。名字さんお前の事こと大好きだってよ」


ウサ吉の頭を軽く撫でながら笑う新開君は、やっぱりすごくかっこいい。そして、デジャヴ。動物園でも、こんな光景を見た気がした。あの日と違うのは、私達の間の関係がちゃんとした恋人同士であるというところくらいだろうか。相変わらず新開君はきらっきら眩しくて、かっこよくて優しくて、私の心臓は休まるところを知らない。

それが嫌なわけじゃないけれど、いつまでもやられっぱなしは悔しいわけで。


「ウサ吉も大好きだけど、新開君のことも、大好きだよ!」


今まで、ちゃんと正面から伝えたことなんてなかった。新開君から貰うばっかりだったけど、私だって気持ちを少しは言葉で返したい。一気に体温が上がって行くのを感じる。きっと、今の私の顔はみっともないくら赤くなっているんだろう。恥ずかしいし緊張するし、ここまで頑張ったのだから新開君にも少しくらい動揺して欲しい。そしてあわよくば、ときめいて欲しい。

図々しくもそんな願いを込めて新開君を見ると、私の視界はウサ吉に覆われてしまった。目の前にウサ吉、唇に柔らかい感触。…あ、これもデジャヴ。ウサ吉は柔らかいなあ可愛いなあ、なんて考えていると、新開君が珍しく小さな声で呟いた。


「…おめさん、今こっち見るなよ。絶対だぞ」


…そう言われて、黙ってハイそうですかと頷く人が一体世の中にはどれくらいいるんだろう。多分、ほんとに少数の人たちだけなんだろうな。そして私は平凡代表、当然駄目と言われればやりたくなる大多数に分類される。

首を傾げて新開君の表情を盗み見て、……ごめんなさい。そこで動きがぴたりと止まる。

ウサ吉越しにみた新開君は、今まで見ていない顔をしていた。視線を少し反らして、耳を赤くして。…新開君、こういう顔もするのか。新発見だ。


「え、ええと」

「……」

「………ごめんなさい」

「……」


新開君は、黙ったままこっちを見ようとしない。だけど怒っているだとか、そんな素振りはまったくなくて。私と新開君の間に漂う沈黙は、どこか甘さを持った不思議な物だ。


「俺、見るなって言ったよな?」

「見るなと言われれば、見たくなるのが人間の性でして」


こで新開君は、大きく溜息をついた。そりゃもう大きなため息を、盛大に。どうしようさすがに呆れたかな機嫌悪くさせちゃったかな、慌てて新開君の顔を覗き込むと、ぐいっと腕を引かれた。そうして次の瞬間には、唇に感じた先程とは違う熱。


「し、しんかいくん」


一瞬で離れたそれは、もしかしなくても、そういう、あれなわけで。


「いっ、今、何」

「…お返し。分からなかったなら、もう一回しとく?」

「結構です!結構ですから!心の準備が出来るまでもうしばらくお待ち下さい!」

「そっか、わかった」


じゃあ、準備出来たら教えてくれよ。そんな事を言う新開君は、もうすっかりいつものペースを取り戻したようだった。


「そうだ、さっきの返事。…俺も、みょうじさんのことが大好きだよ」


そう言って笑った新開君の笑顔は、見ているこっちまで胸が苦しくなるくらい幸せそうなものだった。

勘違いから始まって、散々迷ってうろうろして。きっとこれから先も楽しいことばかりじゃないんだろうけど、それでもずっとこの人の隣にいたいと思えた。
新開君が顔に浮かべるのは満面の笑み、指先が模るのはバキュンのポーズ。…そんな事しなくたって、もうとっくに仕留められている。あえて口には、しませんけども。


おわり! ありがとうございました!
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