「クーリスマスーがやってくるー♪」
静かな廊下で鼻唄混じりの声が響く。
冬休みの休暇の間、学校に残るものは少ない。確か全校生徒で10人もいなかっただろう。
そうなれば、小さな声だけでも誰かと特定するのは容易かった。
「名前?」
「あ、シリウスー」
こちらに振り返って俺の名前を呼ぶ名前。
一本道の廊下で周りには彼女以外何もなかった。あるとしたら、肖像画だけ。
名前に向かって歩いていくと、彼女は立ち止まってシリウスが来るまで待っていた。
彼女の目の前まで来た瞬間、
パァンッ!
「っ!!」
「メリークリスマース」
にっこりと笑いながらクラッカーを手にする名前。
クラッカーから出たキラキラとした紙が周りに舞う。それと一緒にラッパを吹く小さな妖精も出てきた。
ふふふ、と笑う名前の頭の上には自分でやったクラッカーの紙が乗っていた。
「何すんだよ」
「わ!やめてよー」
名前の髪をわしゃわしゃしながらクラッカーの紙をはらう。
「毛玉みてぇ」
「うるさいなー」
綺麗に整えていた名前の髪は好き勝手な方向にはねていた。
笑いながらそう言うと、名前はボサボサになった頭を手で解かす。
「あ」
何かに気づいたのか名前はシリウスの頭の上を見た。
「シリウス、ちょっとしゃがんで」
「こう?」
「ん、そうそう」
彼女の目線までしゃがむと、名前は俺の髪を触った。
「!?」
「キラキラ、いっぱいついてる」
足許を見ていると、上からひらひらと何枚かキラキラが落ちてきた。
赤くなった顔をごまかしたくて、口許を手で隠す。
名前の手がシリウスの髪をそっと撫でる。
「もう大丈夫だよー」
顔をあげるとすぐ近くに、柔らかく笑う名前の顔。
ふと、手を伸ばして名前の頬を撫でた。
「シリ、ウス…?」
気がついたら、名前を抱き締めていた。
腕の中で少し動きが止まる名前も、しばらくしてシリウスの背中に手を回す。
安心したのかよく分からないため息が出た。
「ため息すると、幸せなくなっちゃうんだよー」
モゴモゴと俺の腕の中でしゃべる名前。
「今幸せすぎるから、へーき」
ゆっくりと離れて、二人で手を繋ぎながら談話室に向かった。
「メリークリスマス」
短編