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「レギュラスー」


名前先輩の口から吐息と共に漏れる自分の名前。彼女と過ごす二人だけの落ち着いた日々。
その時間、空間がすごく好きだった。


「レギュラスぅー…すきぃー」


先輩は、僕に寄り添いながらよくそんなことを言った。
苦しそうに、愛しそうに、泣きそうになりながら、先輩はよくその言葉を言った。
まるで限られた時間を惜しむように。


………。わかってます、わかってます。僕だって先輩が想っているよりも、




いつだって思い浮かぶのは彼女のことで。
それは僕が最後になる日もそうだった。


「あ゛ぁああっ…!!」

「レギュラス坊っちゃま、飲まなきゃ駄目です…飲まなきゃ…!!」


苦しい苦しい苦しい。
焼けつくような喉と切なさ。


ヴォルデモート卿の分霊箱は脳裏を犯すかのように、甘い声で囁いてくる。


『愛しい者と別れるのだ…死は怖いだろう?』


そんなこと、わかってる。
先輩に会いたい。もっと抱きしめたい。もっと彼女の温もりを感じていたい。


「あ、ぐ…っ」


たった一杯飲んだだけで、意識は朦朧とし、力が抜ける。
膝を落とし、どうにか平静を保とうとするが、息はかえって苦しくなる。


途端、目の前が突然眩しくなった。
突然の光に薄目を開けて見てみると、心地よい光。
その白い光はぼんやりとしていて、僕にすりよってくる。


「名前先輩…の、守護霊?何でここに…」

「レギュラス、」


洞窟の中で声が反響する。彼女の心地よい声が、自分の意識をはっきりとさせた。

顔をあげると、先輩が湖のほとりで突っ立っている。


「何で、ここに」

「何でもくそもないわよ。レギュラスこそ何でこんなところにいるの?
ねえ、私この分霊箱を見つけた時言ったよね?一緒に壊そうって。
なのに、なのに、…何でいっつも1人でやろうとするのよ!!」


先輩の言葉を頭の中で反芻する。


汗を拭いながら、湖のほとりに立っている彼女をゆっくりと見た。


「私っ、別にレギュラスとなら死んだって…いいもん!!」

「先輩、」


ジャラリ、と鎖を引っ張って。湖の中から先輩は小舟を取り出して近付いてくる。
僕はそれを映画のワンシーンを見るかのように見つめた。


先輩、何でここに来たんですか。何でわかってくれないんですか。先輩は僕という存在に近づかなければ、こんな闇の魔術に染まることなんてなかったんです。

僕と関わりさえ持っていなかったら、先輩は真っ当な人生を歩んでいたんです。

先輩は僕に近づいたせいで色んな大切なものを捨てているんですよ。

先輩、これ以上僕のために傷つかないでください。
僕をこれ以上、苦しませないでください。


「レギュラスっ…!!」


小舟を陸につけて、先輩はぎゅう、と僕を抱き締めた。
先輩以上の力で僕も抱き締め返す。


「名前…先輩!!」


途端に包まれる幸福感。
先輩が好きだ。離れたくない。離れたくない。


苦しいほどに抱き合ってお互いを感じる。
だから会いたくなかったんだ。この温もりがもう感じられないなんて、なんで分からなければいけなかったんだ。
大好きです、大好きです先輩。


「…レギュラス、泣いてるの?」


彼女は腕から離れて僕を見た。
僕を安心させるようにふわりと笑って彼女は言う。


「…レギュラス、私レギュラスと一緒だったら死ぬのなんて全然怖くないよ。
私、レギュラスといるだけで幸せなの。」

「……」

「ほんとよ。私、その覚悟でずっと一緒にいたんだもの。
だから私、強くなったわ。もう昔みたいに弱くない、でしょ…?」

「……」


「勉強もしたし…私色々頑張った、わ。闇の魔術だって。
まだちょっと、苦手かもだけど…」

「……」

「それに、私、…」

「……」

「ねえっ!!何で黙ってるの!」


彼女の目から涙がボタボタと落ちる。


「レギュ、ラス…お願い!私もう1人になるなんてっ…やだわ…!!」

「先輩、」


顔を手で覆って先輩は嗚咽を漏らす。


「…先輩は、いい人すぎるんです。」

「レギュ、ラス…?」

「変な人に騙されたりしないでくださいね。」

「…な、」

「それから―――」

「やめてよ…!!」


でも、これはもう決めたことなんだ。


「オブリビエイト」


先輩の胸に杖を突き、その呪文を言った。
気を失って、力が抜けた先輩を抱き抱える。


「それから―――愛しています。」


僕を忘れてしまっても、せめて僕の言葉は覚えていてほしい


「先輩、僕と関わったせいで捨ててしまった幸せはこれからでもたくさんあるはずです。
どうか、…幸せに生きてください。」


聞いているはずもない先輩にそう言って、僕は貝を手にとった。


「クリーチャー、先輩を、安全な場所に。」


先輩のおでこにキスを落とし、クリーチャーに託した。


「レギュラス坊っちゃま…」

「…いいんだ。」


クリーチャーを諭し、姿くらましさせる。
先輩がいなくなった場所をしばらく見つめてから、僕は貝を手にとった。


「名前先輩、さようなら。」


そして僕はまた、黒い水を飲んだ。





淡い恋の終焉


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