03 はじめまして
転校生がやってくる。
夜の食事が始まる大広間、校長はそんなことを言い出した。
突然のことに、大広間は生徒たちの驚きの声で包まれる。
全くもって珍しいことなのでどの寮もみな、少なからず興味津々のようだった。
ガチャリと控えめな音がして、大広間奥の小部屋から登場した少女は、教員テーブルの前に立った。
静まる大広間で全ての生徒の注目が一点に集まる。
咳払いを1つして、緊張した笑みのまま彼女は一気に言った。
「えーと、スリザリン五年生に入らせていただくことになりました、名前・苗字です。どうぞよろしくー」
へにゃりと笑って礼をした名前はそそくさと教員テーブルの奥の小部屋へと行ってしまった。
途端、えええええ!!と驚愕の声があちらこちらから沸き起こった。
転校生、ただでさえ珍しいことなのに、組分けを先にしてしまっただなんて。
いや、それよりも紹介をしただ去っていくなんて簡潔すぎるというかなんというか。
なぜ突然入学したのかなど色々と疑問が残るところである。
立ち上がって彼女を見ようとする者や、ワアワアと騒ぐ者たち。
スリザリンの生徒たちでさえ状況を飲み込めずに、隣の生徒たちと顔を見合わせていた。
***
「うっはー終わったー」
ふぅ、と息を吐いて小さな丸椅子に座り、足を投げ出す。
扉の向こうでは生徒たちがもう食事を始めたようで、楽しそうな声や、金属音が重なる音が聞こえてきた。
扉の向こうの音を無意識に聞いているとダンブルドア先生が笑いながら言った。
「わざわざ小部屋に戻らなくても、寮のテーブルで食べてもよかったんじゃぞ」
「いやー気付いたらもうこの部屋に逃げ込んじゃってまして。明日の授業から少しずつ慣れていきたいです」
「そうかの、では食事はここで済ますかの?」
「あ、うぇ、ほんとですか!ありがとうございます!!」
ダンブルドア先生はパンッと手を叩いた。すると、目の前に色とりどりの食事が現れる。
「うひょ!色々ドタバタしてて忘れてたけどめちゃくちゃおなかすいてきた…!」
すぅ、と香ばしいにおいを吸ってナイフとフォークを手に取る。
ダンブルドア先生は「食事が終わったらここで待ってなさい」と言って小部屋から出ていった。
しばらく食事をしていると、扉がガチャリと開いた。
私はフォークにじゃがいもを刺したままの状態で一時停止する。
「リ、リドルくん?」
「ごめん、まだ食事中だったね」
「いやいやそんなことは…!」
じゃがいもが刺さったフォークを持ちながら私は手をふる。
「緊張したみたいだね」
私の前の椅子に腰をかけ、リドルは微笑みながら言った。
「そ、そりゃそうですよ。私こういうの苦手ですしー」
へぇ?と微妙に首をかしげてリドルは笑った。
リドルから視線を外し、じゃがいもを見つめながら私はしどろもどろに答える。
「……」
「……」
しばらく沈黙が続いたので、上目遣いでリドルをこっそり見るとにこりと笑いかけてきた。
「気にしないで食べてていいよ」
「あ、ありがとう。
ええっと、……どうかしたの?」
ここに来た用件はなんなのだろうか。率直に思った私はそう尋ねた。
するとリドルは柔和な笑みを見せた。
「どうって先生に言われた通りだよ。監督生が君の世話をするって聞いたけど」
「あ、そゆことですか!わざわざ来てくれてありがとうございます〜」
最後のじゃがいもを口にほうりこむと。
「じゃあ、最初は学校を案内するね」
「いやーそれは…あ、…」
危ない危ない。私はリドルくんにとってホグワーツに初めて来た生徒ってことになってるんだ。学校とか裏の裏の道まで知ってるんだけど……しょうがない。
でもこれからこういう事意識しなきゃなのねー意外に大変そうだ
「――じゃあ、お願いします」
にこりと笑って、私とリドルくんは部屋を出た。
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兎の夜遊び