「……んぅ?」


朝起きれば、いつもとどこか違う部屋。
起き上がって部屋を見渡せば、やけにさっぱりとしている。


「…??」
「あらぁ眠り姫ちゃんお目覚めね」
「ママー…」


まだ眠た気な目をこすって、ママもといルッスーリアの元へとベッドを降りて歩きだす。


「なんかね、おへやがちがうのー」


頭にはてなを浮かべながらルッスーリアの足元に抱きつくと、ルッスーリアはまぁ!と嬉々とした表情を浮かべた。


「リーアちゃんよく気が付いたわねぇ!さすがだわ!」


さながら親馬鹿の如くハートを撒き散らすと、しゃがんでリーアと目線の高さを同じにする。


「ここはね、ジャッポーネよ」


着替え、朝食と済ませると、ルッスーリアはリーアに事の経緯を教えた。
今回日本に来たのは、特別任務その他もろもろのため。そして、彼女が眠っている間に移動が行なわれた。
リーアは話を聞いて納得したのか、にっこりと笑って頷いていた。ルッスーリアもそれを見てつられて笑うが、ベルに気持ちわりぃと毒突かれた。


「あ、でもリーアちゃんはしばらくお仕事ないのよ。ゆっくり遊ぶと良いわ」


思い出したように言われた言葉から数十分後。
リーアはヴァリアー日本支部を飛び出して、最恐の男が居る町に降り立った。


―並森商店街―


そう書かれたアーチは高過ぎて、彼女の視界に入ることはなかった。無論、見えたところで読めはしないのだが。


「(リーア、みんなのためにていさつしてあげるの!)」


リーアだってかんぶこうほせいなんだから!と、えっへんと言わんばかり胸を張ると、商店街を走り回る。
細い小道や店の裏側、特に意味はなけれどウィンドウの前に張りついたりと、せわしない動きを繰り返す。


「(ボス、リーアひとりでていさつできるよ!)」


頭の上でほわわんと、ザンザスがリーアの頭を撫でる光景が浮かぶ。
リーアは上機嫌で足取りも軽く、えへへと笑いながら歩いていた。ら、


「ギッャハハハハーぎゃぴっ!」
「きゃっ」


ちょうど曲がり角へと着いた時、角の死角から黒い物体が飛び出してきた。
リーアはソレを避ける事は出来ずに、ぶつかった反動で後へ転んでしまった。


「ランボちゃん!大丈夫!?」
「ランボさんなんかにぶつかったもんね!
でもランボさん強いから痛くなんかいもんね!痛く…なんか…」


ランボ、と言われた牛の様な姿の少年は、痛くないと主張しつつも今にも泣きだしそうに目を潤ませていた。


「あらあらランボ君偉いわね〜よしよし、大丈夫よ」


貴方も大丈夫?と牛柄の子のお母さん(らしき人)は、リーアの元へとしゃがみ込む。


「…リーア、ヴァリアーのかんぶこうほせいだから強いんだよ!いたく…うぅぅ……」


リーアもリーアで、きっと強気な態度で立ち上がるも、しりもちを付いたのが痛かったのか目が潤んでいる。


「そう、リーアちゃんもランボ君と同じで強いのね。偉いわ」


女性はリーアの頭も撫でると、リーアのスカートに付いた汚れをパンパンと叩いた。


「あんなのよりリーアの方がつよいもん」


ぷいっと頬を膨らませてぼそりと呟くと、女性微笑ましく笑った。


「リーアちゃんはこの近くの子?良かったら消毒するから、お家に来ない?」


お詫びにお菓子も出すわ、と付け加えれば、リーアは勢い良くいく!と答えた。






「ただいまー」


今日もリボーンやら獄寺君やら雲雀さんやらで疲れたーと心の中で付け足し、安息の地である(かは微妙だが)自宅に帰ってきたツナ。
少し疲れの見える声に、明るく高い奈々ママの声、騒がしいランボの声、何を言ってるかは不明だが可愛らしいイーピンの声と続く。
今日はフゥ太とビアンキは居ないのか。と自己完結した中、ひとつ聞き慣れない声が足された。


「だーれー?」
「さっき話したツッ君よ」


甲高い、幼い女の子特有の声と親しげに話す奈々ママ。誰が来ているんだろうと、ツナは足元にちびっ子二人を従えてリビングを覗いた。


「母さん、誰か来てるの…ってなぁ!?」
「はじめまして!リーアだよっ!」


にっこり、と片手を高く掲げて行儀良くあいさつをする目の前の女の子…リーアを見て、ツナは顔を青くして固まった。
それもそのはず。今彼女が身に付けているのは、年相応と言える服ではなく


「その黒いコートは…ヴァリアーの!!」


ヴァリアーの象徴とも言える黒い革のコートは、紛れもなくかつて敵として一戦交えた彼らと同じものだった。


「な、なんでこんな小さな子が…」
「リーアね、ヴァリアーのかんぶこうほせいなんだよっ!」


すごいでしょ!と言わんばかりに満面の笑みを浮かべるリーア。
傍らでは母さんが
「幹部候補生って事は、どこかの会社の娘さんなのかしらね。凄いわよねぇリーアちゃん」
なんてのんきな事言ってるけど、会社なんかじゃなくて、もっとおっかないヤツだから!前に死に物狂いで戦った相手の仲間だから!

…とは言えずに、あぁもうと頭を抱えるツナ。
そんなツナを余所に、リーアは目の前にあるお菓子を夢中で頬張っている。
しかしそこに伸びてきた白と黒の小さな手によって、ハッと現実に戻された表情になる。


「あっ!!」
「ガハハハ!!コレは今からランボさんのもんだもんね!」


がばっとリーアの前に置いてあったお菓子の皿を奪ったランボは、どうだと言わんばかりに奪った皿を掲げた。


「あっコラ!ランボ!」


またか、とため息をつきながらツナがランボを捕らえようとするが、ふと視界の端に固まったままのリーアが映った。


「…リーア?」


どうした?と顔を覗き込むと、


「リーアの…」


相当ショックを受けたのか、それともランボにお菓子を盗られたのが悔しいのか、右手を突き出したままわなわなと震えていた。


「あ、あのリーア、ごめんな?」
「リーア、おねえさんだもん…おねえさん、だもん…」


まるで暗示するかの様に、俯いてそう呟くリーア。
自分はお姉さんだから、とは言っているが、俯いた顔には涙を浮かべていた。


「リーア…おねえさん、だも…っうくっ」


段々としゃくりが交ざり出し、涙がポタポタと落ち始めた。


「(うわっ泣き始めちゃった…!)」


どうしよう、とツナが辺りをキョロキョロと見回すと、冷蔵庫が目に留まった。


「(そうだ!)」


「ランボ君、リーアちゃんのお菓子取っちゃダメでしょう?」
「う〜…でもでもランボさんもコレ食べたいんだもんね!」
「だったら、リーアちゃんと二人で半分こして食べましょう?」
「やだ!コレぜーんぶランボさん食べたい!!」

「うっ…ぐずっ」
「リーア」
「…う?」


奈々とランボのやり取りを背後に、ツナは冷蔵庫から取り出したそれをリーアに差し出す。


「はいこれ、リーアにあげるよ」
「リーアに?」
「あぁ。今度はランボに取られるなよ?」


差し出されたそれ…縞のうず巻いた飴を見つめたリーアは、こくんと頷いて、小さな手でツナからそれを受け取った。





つづく


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