ある日の朝。
ヴァリアー幹部の半分が遠くまで出払った時であり、いつもある気配が閑散としていた日であった。
「う"お"ぉぉぉい…誰も居ねぇのか」
スクアーロがいつものように朝食をとろうとリビングまで足を運ぶが、見事に誰も居なかった。
今日アジトに残っている幹部メンバーはマーモンとベルとスクアーロのみ。内二人は姿を見ていない。
「そういやぁ…あのチビはどうしたぁ」
何かが足りないと頭を捻らせた結果、いつもきゃっきゃっ言ってる少女がいない事に気が付いた。
スクアーロはリーアの部屋を思い出しながら道を辿っていると、案の定子供特有の高い声が聞こえてきた。
「うぅー…リーアめげないもん!これくらいひとりでできるもん!」
一体何をしているんだ、と突っ込みたくなる様なひとりごとが聞こえた。
リーアの声には若干の涙声が含まれていて、疑問符を浮かべながらも扉を勢い良く開けた。
「う"お"ぉいガキ、何をしてるんだぁ?」
「スクアーロぉ…」
扉を開けて見えたのは、部屋の真ん中で座り込み髪をおろした状態のリーア。
リーアの手には、いつも彼女が使っているリボンが握られていた。
「……おまえ、何、やってるんだぁ?」
状態がわからず、同じ言葉が口からこぼれた。
「なんでもないもん!スクアーロにはかんけーないもん!」
「な…」
半分やけになっている様な声で、ぷいっとそっぽを向くリーア。
スクアーロもカチン、と来たのか、頬に一筋血管が浮き出た。
しかしリーアはそんな事はお構いなくと言った様子で、リボンを髪に結び付けようと奮闘し始めた。
さすがのスクアーロも状況が飲み込めたのか、しばらく涙目でリボンと格闘するリーアを見たあと、浅くため息をついた。
「ほら、貸しやがれ」
スクアーロはリーアの後ろにしゃがみ込み、リボンを貸せと手を差し出した。
「やだ!リーアひとりでできるもん…!」
頑なにリボンを渡そうとしないリーアに対し、「出来てないだろうがぁ」と一言返す。
うっ、と言葉につまり、段々と大きな目に雫がたまる。
「できるもんん…っく」
今にも泣きだしそうになるリーアにスクアーロはゲッと面倒な事になると本能的に悟り、仕方なしに
「う"お"ぉぉおい…ったく、じゃあやり方教えてやるからやってみろぉ」
と言った。内心ガキはやっぱりめんどくせぇと思いつつ。
リーアも渋々納得した様子で、スクアーロにリボンを渡す。
「良いかぁ?まずは…」
スクアーロはひとつひとつ手順を教え、リーアもあとを追って髪を結んだ。
「ほら、完成だぁ」
「わあぁぁ…!」
サイドに結ばれたリボンにリーアの表情もぱあっと明るくなる。
「すごいねスクアーロ!ママみたい!」
「マ……っあんなオカマと一緒にするんじゃねぇえ!!」
きゃっきゃっとまた、いつも通りに笑いだすリーアに再びため息をはいた。
「ねぇねぇ、スクアーロはリボンつけないのー?」
あぐらを掻いて座るスクアーロの膝に乗り出す形で、リーアが興味深そうにたずねてくる。
「誰がつけるかぁ」
間違いなくこの場にベルが居たら吹き出すだろうと頭の隅で思いながら、自分の横に移動するリーアを目で追った。
「スクアーロのかみきれー!きらきらしてる!」
「ハッ!まぁなぁ!」
髪を褒められて万更でもない、といった表情。
その間にもリーアはスクアーロ髪をくるくるといじったりして、一人楽しそうに遊んでいた。
(…ってう"お"ぉぉおい!!何遊んでいやがる!)
つづく