リーアが幹部候補生として対面してから早1ヵ月。
そんなある日の出来事。


「う……」
「………」


ココはヴァリアーのボスであるザンザスの私室。
そこには足を組み椅子に深々と座る部屋の主とちびっちゃい少女が俯いていた。


「ボス…ごめんなさい」
「………」


今にも泣きだしそうに声を震わし謝るリーアに、ザンザスはじっと彼女をみていた。


「おしごと…しっぱいしちゃって…ごめんなさぁい」



この一ヵ月間、数多の任務をこなしてきたリーアの謝罪。

今回の任務に初めて失敗をして帰ってきたのだった。
もちろん、幹部候補生であろうと失敗は許されない。

しかし目の前の少女はまだ幼すぎる。死や鮮血に慣れるのには幼すぎる。
なのに何故この小さな娘は血を平気でいられる?それはヴァリアーの中でも謎のままだった。


「ボスぅ…リーアを置いてかないでぇ…」


この年齢の『普通の』少女なら血にも無縁、この世界の者でも今まで任務を成功させていたのはかなり優秀だ。
ぽろぽろと大粒の涙を落とすリーアから視線を外す。


「……カスが。お前はまだ候補生だろう。失敗位当たり前だ」


お前にはまだやってもらう事がある、と静かな声色で話せばリーアはぱあぁっと顔を輝かせ、ザンザスの足元に走り寄った。


「ありがとーボス!だいすき!」


ぽふっと彼の膝にのしかかり嬉しそうに足をばたつかせる。
こうしていれば、年相応の少女に見える。


「…フン」


ザンザスは視線を扉へ向けると「いつまで聞き耳立ててるつもりだ。いい加減出てこいカス共」と睨みを効かせた。
すると潔く扉は開かれルッスーリアを始めとするいつもの面子が揃っていた。


「やーねぇボスってば気付いてたの?」
「!ルッスーママ!」
「しし、リーア泣いてやんの。泣き虫ー」
「リーア泣き虫じゃないもん!」


べーっと舌を出しベルに威嚇(?)するが相変わらずザンザスの膝に抱きついているリーア。


「う"お"ぉぉいザンザス!!ガキ泣かせるとは良い趣味してんじゃねぇかぁ!」
「ふざけるなカス。俺にそんな趣味はねぇ」


スクアーロがザンザスにちょっかい出す中、彼との会話が面倒になると予測したザンザスは立ち上がり自室から出ようとした。


「ボスぅ?」
「着いてこい。ガキは寝る時間だ」


首を傾げたリーアにそう告げると、またツカツカと歩きだした。
リーアも嬉しそうに頷き彼の後を駆け足で付いていった。


「ありゃあまるでひよこだなぁ」


スクアーロの呟きに、皆が頷いていた。





リーアの部屋に着き、中に入れば子供らしいぬいぐるみと反対に錬金術の本があちらこちらに見えていた。


「ボスっ」


ようやく着いたリーアに振り返りぽんと頭に手を乗せる。


「とっとと寝ろ、良いな」
「…うん、おやすみなさいボスっ」


そのまま振り返らず部屋を去るザンザスにリーアはパジャマに着替える。


「(…あいつの血馴れの意味は一体)」


ザンザスは意識の底に沈められていたそれを思い出し、再び自室に戻っていった。





つづく


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