事の始まりは九代目の一言からだった。
「ヴァリアー幹部候補生を一人前に育ててもらうよ」
この時は、まだ誰も疑わなかった。
候補生の事を…。
「ボースー」
「…何だ」
ボンゴレアジト内、ある一角の部屋では暗殺部隊ヴァリアー幹部が勢揃いしていた。
そのひとり、ルッスーリアが嬉々とした表情でボスのザンザスに話す。
「何だ、じゃないわよ〜今日でしよ?候補生が来るの!」
楽しみだわ〜と音符を飛ばすルッスーリアにザンザスはグラスを片手に「くだらねぇ」とはき捨てる様に呟いた。
「ねぇ、そいつ男なの?女なの?」
ソファで足を組みくつろいでいるベルは興味有りげに質問した。
「そおねー私も詳しい事は知らないのよぉ」
「来てからのお楽しみ、って訳だね」
ルッスーリアの曖昧な返答にベルはふーんと天井を仰いだ。
コンコン
リズム良く扉が叩かれる。誰かと思いルッスーリアが開けると、目の前には誰も居ない。
「あらぁ?」
不思議そうに首を傾げると、服をついついと引っ張られる。
視線を服の裾へと移すと、先には小さな子供。
「オイ、どうした」
「ボス、ちっちゃい女の子よ」
その場から動かないルッスーリアにザンザスが問えば、返事と共に小さな少女が顔を覗かせた。
「なんだ、子供じゃん」
「う゛おぉぉい、ガキが何の用だぁ?」
ベルとスクアーロも小さな少女に視線を移す。
だが少女は怯える事無くただただヴァリアーのメンバーを見ている。
「ム?ねぇルッスーリア、その子供例の候補生じゃないの?」
え、と声を上げて少女を見下ろすと、自分達と同じ黒いコートを着ているではないか。
「こんなガキがかぁ?」
じとーと疑わしい目で少女を見ると、少女は初めて抗議の言葉を発した。
「ガキじゃないもん、リーアだもん!リーアこうほせいで来たの!」
むーと両頬を膨らます子供特有の仕草に幹部メンバーは言葉が出なかった。
「う゛おぉぉい!こんなガキが幹部候補生だなんて俺は聞いてねぇぞぉ!?」
「うしし、こーんなちびっちゃいのにヴァリアー幹部の候補生だなんて超うけるー」
スクアーロはルッスーリアに詰め寄り、ベルはケラケラと笑う始末。
そんな中リーアと名乗った少女は愛らしいかばんから一枚の手紙を差し出した。
「これ、ボスにわたしてって言われたの」
残念ながら差し出した相手はルッスーリアでボスではなかったが、代わりに彼が読み上げる事になった。
「いい、読むわよ」
読み上げた内容はこう。
目の前の幼い少女は由緒正しい錬金術の使い手であって、実力は大人に引けをとらないそうだ。
そこで暗殺部隊ヴァリアーに入隊させたいが、何分まだ幼い故「候補生」という事で一人前のマフィアに育て上げよ、と。
「…だそうよ。この子の名前は…」
「リーア・アーベルト」
ルッスーリアの言葉を遮り続けたのはベル。
彼によると彼女の故郷では有名な殺し屋で、名物マフィアを殺しているベルはその名の持ち主を探したが結局会えず仕舞だったらしい。
「まさかこんなちび助だったとはねー」
「ちびじゃないもんリーアだもん」
未だ自分の名前を主張するリーアはある人物に目を光らせた。
「ラグー!」
ラグ?と皆が思った直後、リーアはマーモンへダイブしていた。
「ラグー!」
「うぐっ苦し…」
リーアはぎゅうぅうとマーモンを抱き締めて放さない。
しかし抱き所が悪く、マーモンの首を絞める形となってしまっている。
「ラグって何?」
「し、知らないよ」
助ける気配の見えないベルの質問もマーモンは声を絞りだして答える。
顔が青くなってきたマーモンをさすがにマズイと思ったのか、ルッスーリアがリーアからマーモンを取り上げる。
「あーラグー!」
両手を伸ばして返して、と主張する。
ルッスーリアはダメよーとマーモンを安全な場所へ非難させる。
「結局ラグって何の事なんだぁ?」
スクアーロが皆の疑問を代弁すると、ベルが面白そうに「人形と間違えたんじゃない?」と答えてラグ疑問事件は終わった。
マーモンはひとりこれからの生活に早くも不安を抱いたそうな。
つづく