「おかえりー」
夜。弟が帰って来た。玄関で待ち構えていた私は弟に話しかけた。
「…ただいま。」
久しぶりの会話だと思う。
弟はぶっきらぼうにそう言うと、リビングの方に歩いて行く。私はその後ろを雛のようについて歩く。
「ご飯は?」
「食う。」
「おっけ、温めるね。」
「…」
「ありがとうぐらい言えバカ弟。」
「いって、この暴力女!」
思いっきり張り手を背中にしてやった。酷く痛そうにした弟の反応に私は満足だ。お味噌汁を火にかけながら、また私は弟に話しかける。なんとなく、今までの時間を埋めるような。そんな意識はなくとも、無意識に饒舌になった。
「試合観たよー。」
「…おう。」
「おねーちゃん見えた?」
「気づかなかった。」
すいっと目を逸らす弟がかわいい。こいつの癖は昔から変わらない。嘘を付く時は絶対目があわないのだ。本当に素直なやつだなと思いながら食器を並べたついでに弟の正面に座る。
「…なんだよ」
「べつに?ねーちゃんとお話しようよ。」
「飯食わせろよ。」
「食べながらで良いから聞いてよ。」
そこからは、私が一方的に話した。受験のこと、高校のこと、テレビのこと、今吉がウザいこと。思い浮かんだことは全て話した。弟は相槌を打つだけ。それでも会話が成立した。
一通り喋り終わったと気づくと、会話は不自然に途切れた。大輝は相変わらず無言で食事をし、私はぼんやりとその姿をみつめた。テレビから大げさな笑い声が流れる。何か話さなくてはいけないとは思わなかった。無言の空気も、悪いものではない。そう思った次の瞬間には口は軽く動く。
「バスケ、楽しい?」
ぼんやりと、なんの感情もなく訊く。大輝は一瞬動きを止めたが、すぐに食事を再開する。
「…おう。」
何拍かあけての返事だった。それは、彼の本心なのかもしれないし、鬱陶しい姉をあしらう適当で簡素な言葉だったのかもしれない。でも、私にはそれで満足だった。嘘をつくのが下手な弟には、それで十分だった。


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