小説 | ナノ

藤崎と椿





 

―手を伸ばしたら、星にだって手が届きそうなのに。




隣を歩く君の






視界の隅で、きらりと星が流れた。
真上を見上げると、満天の星空ではあるが、流れる星は見えない。
流れ星というものは本当に一瞬なのだと、改めて実感する。
気付けば口を開けて上を仰いでいたようで、隣を歩いていたはずの椿が数歩先から咎める様に藤崎の名を呼んだ。

「流れ星が見えたんだ、」

星空を仰いだまま、よたよたとした足取りで椿の隣に並ぶ。
椿は溜息をついたあと、しかし藤崎にならって星空を見上げた。
夏だというのにはっきりと星が見えるのは、天気のせいか。
空気の澄んだ冬のほうが星空は綺麗だというが、今日の空は負けていないのではないだろうか。

―手を伸ばせば届きそうだ。

ふとそう思い、藤崎は右腕を翳すように持ち上げた。
ぐい、と突き出すようにいっぱいに伸ばす横で、何をしている、と椿が小さく笑う。
だって、手届きそうじゃん。
届くわけがないだろう、と言いながらも星空を見上げる椿は、きっと同じこと考えているのだ。
手を伸ばしはしなくとも、届きそうだ、と。

藤崎が伸ばしていた手を下ろすと、椿も見上げるのをやめてゆっくりと歩き出す。
だらだらと隣を歩き出しながら、藤崎はそっと視線を下げた。
自分のすぐ横で揺れる椿の腕は、格闘技をやっていたというわりに白く細い。
椿の歩みに合わせて小さく揺れるその手との距離は30センチとないだろう。
届きそう、ではなく、届く。そんな近さだ。
それなのに、手が伸ばせない。
さっきは伸ばせたのに。届かないとわかっていても、手を伸ばせたのに。
確実に届くとわかっているのに、椿の手は遥か遠くにあるように感じられて、藤崎は動けない。

―ああ、流れ星に願えばよかったのか。

この距離を縮めてくださいと。この距離をなくしてくださいと。
ぴくりと指先を動かしただけで心拍数の上がった自分の心臓に、藤崎はこっそりと溜息をついた。




(―手を伸ばしたら、星にだって手が届きそうなのに。君の手に、この手はまだ届かない。)




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嗚呼、青春の日々よ永遠に様に提出させていただいたものです。
主催の岡野様には大変お世話になりました。
ありがとうございました。

11.06.31.
11.07.01.後書






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