小説 | ナノ

加藤と椿


179話ねたばれを含みます














 
―もっとはやく、




傷痕






「…会長、この傷は?」

椿の左腕にうっすらと残る細い傷痕を指で辿り、加藤は眉間に皺を寄せた。

「ああ…以前、ちょっと、」

もごもごと言葉につまる椿に加藤は目を伏せる。
言いにくいこと、なのだろうか。
自分の知らない傷があることが、加藤には辛かった。

「…ナイフの傷ですね、」

労るように撫でる加藤に、椿はぴくりと肩を跳ねさせた。

「もう、会長にこんな傷痕は残させません、」

俺が守ります、と加藤は傷痕に唇を落とした。

「キリ…、」

椿が自分の身体よりも仲間を大切にするということは、加藤には痛いほどわかっていた。
投げ捨てた加藤の腕章を、生徒会の仲間である証を、傷だらけになってまで加藤本人に手渡したことは記憶に新しい。
会長が自分の身よりほかのものを守るというのなら。俺は会長ごと全てを守る、と。
加藤はそう静かに心に誓った。

「俺が会長を必ずお守りします、」

―この命に換えても。

真直ぐ自分を見つめてくる加藤の漆黒の瞳には、何の迷いもなかった。
椿は顔を曇らせ、ゆるゆると首を振る。

「だめだ、それはだめだキリ、」

「なぜです、」

否定されたのだろうかと、加藤は戸惑ったように目を揺らした。
日頃は凛と上がっている眉も自然と下がる。
椿はまた首を振り、それじゃだめなんだ、と繰り返した。

「君が傷ついたら、意味がない、」

「かい、ちょう…、」

椿の腕に触れたままであった加藤の手に、椿の右腕がそっと重なる。

「わかるな、キリ、」

なんて優しい人なのだろうと、加藤は自分の目頭が熱くなるのを感じた。
自分のことをここまで想ってくれる人に、加藤は出会ったことがなかったのだ。

「はい、会長、」

凛とした態度を崩してはいけないと、加藤は緩みそうになる涙腺に力をいれる。
加藤の返事に満足したらしい椿は、対照的にふわりとその表情を緩めた。


ああ、やはり、と加藤は思うのだ。
自分は仕えるべき主君に出会えたのだと。

そして思うのだ。




(―もっとはやく、貴方に出会いたかった。)
















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いまさら感が否めない…
蜘蛛の会ってすごく美味しい話だと思うのです


11.04.12. 加筆修正















キリって…!
179話より前に書いたものだったのですが、衝撃が大きすぎて修正しました(笑)

なんで椿ちゃん腕出してるのとか聞いちゃだめです私もわからない
なんで傷残ってるのとかも聞いちゃだめです私の趣味です


なんかほんとすみません







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