小説 | ナノ

晴矢と風介








―ここから始まる、




君と一緒なら






FFI。韓国代表ファイアードラゴンのメンバーとして、またサッカーを始めてから1週間。
始めは、慣れない外国生活や、新しいチームメイトとのコミュニケーションなど、戸惑うことも多かったが、生活にもだいぶ余裕がでてきた。
と、いっても専用の寮での生活なわけだが。
練習以外は特にすることもないし、サッカーしてれば特に難しいこと考えなくてすむわけだし。
不自由は、全くといっていいほどない。
エイリア学園として名乗っていたナマエではなく、本名で呼ばれることにほんの少しだけ照れを感じたのもすぐになくなり、今ではもうひとつのナマエのほうが懐かしいくらいだった。
俺を、あのナマエで呼ぶ人間は、いないから。
唯一、最近まで俺をそのナマエで呼んでいた風介も、今ではすっかり晴矢呼びが定着したようだし。俺も、風介以外のナマエであいつを呼ぶことはなかった。
風介。
俺が今の生活にすんなり慣れたのには、風介の存在も少なからずあると思う。
ひとりとふたりじゃ、全然違うから。
それは風介にしたって同じだろう。
少し人見知り傾向の風介がひとりでこのチームにはいっていたら、きっとまだぎくしゃくして本来のプレーができていないと思う。
まあ、それはあくまで俺の憶測なのだけど。

小さく聞こえていたシャワーの音が消える。
少しして、タオルで髪の毛をぐしゃぐしゃと乾かしながら、風介がシャワールームからでてきた。
いくらふたり部屋とはいえ、まるでホテルみたいな寮だ。
助かる、けど。

「もう寝るか?」

ペットボトルの水を飲む風介にそう聞けば、そうだな、と風介はカレンダーに目を向けた。

「明日は練習試合があるようだし、」

言われて気付いた。そうだ、確か明日はアジア予選に向けての、練習試合だった。
あ、と思わず出てしまった声を聞いてか、風介が俺にちらり、と冷たい視線を向ける。
笑って誤魔化そうとしたら、溜息をつかれてしまった。

「悪かったって、」

まあ、とにかく明日は試合なわけだからさっさと寝ようぜ、と胡坐をかいていたベッドに寝転がる。

「消すぞ、」

風介が部屋の電気を消す。
ぱちん、とスイッチの音がして。部屋は真っ暗になった。

「あれ?」

いつもならオレンジ色の豆球が点くはずなのに。
カーテンも閉めてしまった部屋の中は真っ暗で、何ひとつ灯りがなかった。

「豆球切れたみてーだな、」

あまりの暗さに、枕もとの携帯を開く。
真っ暗な中では携帯の画面は明るすぎて、その眩しさに顔を顰める。

「そうみたいだな、」

風介は真っ暗な中を、おそらくおそるおそる歩いて。
俺のベッドに倒れこんだ。

「イテ!」

いくら体重が軽いやつとはいえ、思い切り上に乗り上げられれば結構な衝撃だった。
しかし風介は丸くなったまま動かない。

「風介?」

どうした?と、俺の上に乗ったままの風介を見上げると。
震える声で。

「足…打った…、」

どうやら俺のベッドに乗り上げるときに、足をぶつけたようだ。
多分、かなり痛かったのだと思う。
風介はその後何も言わずにぷるぷると震えていた。

「あれ、おい風介、」

痛みが落ち着くまで風介の頭を撫でて、ふと思い出す。
こいつ、真っ暗だと寝られないんじゃなかったっけ。
今から豆球を変えるのはめんどくさいが、切れたものは仕方がない。
俺がそう言えば、風介はしばらく考えるように沈黙した後。

「晴矢がいれば寝られるから、明日でいいよ、」

そう言って、風介は俺の毛布に潜り込んだ。
真っ暗なせいで、朱くなった顔はバレないだろうけど、未だ黙ったままの俺の足に、風介の足がぴとり、と触れて。

「つめた…!」

その冷たさにびっくりした。
俺よりあとにシャワーを浴びたのに、なんだこの冷たさは。

「まあ、私は少し冷え性だからね、」

「冷え性ってこんなに冷たいのか…、」

ぎゅう、と風介の身体を抱きしめてみる。
全体的に俺より体温が低くて、手足は、冷たい。
俺は子供体温なほうだけど、それにしたってこれはつめたすぎるだろ。

「晴矢は温かいね、」

風介も、ぎゅう、と俺に抱きついてきた。
首筋に、まだしっとりとした風介の髪の毛があたってくすぐったい。

「ったく、仕方ねーな、」

あっためてやるよ、と腕の力を強める。
こんなに冷えてるんなら、こうやってあっためてやるのも悪くない、と思いながら。
俺の意識は緩やかに落ちていった。


「おやすみ、」

















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南涼の日おめでとうございます!
10月11日なのでファイアードラゴンな南涼でした^^

南涼はほのぼのが好きなので、つい緩い話になってしまいました(笑)


10.10.11.







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