小説 | ナノ

バーンとガゼル





―暗闇は口実、




君と一緒なら






バーンとともにカオスを結成してから1週間が過ぎた。
グランや他のチームのメンバーには未だ気付かれていないようで、私たちは秘密裏に練習を重ねている。
今まで敵対していた私たちは、なかなか息が合わない。まだまだ課題は山積み、といったところだ。
バーンと新しい必殺技の練習も始めてみたが、それもまだ完成にはほど遠い。
なんとしても、あれを完成させなければ。
私は、もう負けるわけにはいかないのだから。

タオルに顔を埋めて息を吐き出す。
誰もいない夜のグラウンドはしん、としていて、昼間とは全く違う場所にさえ思えた。
足に力を入れてもう一度走り出す。
フィールドの中央を駆け抜け、思い切りボールを蹴る。
真っ直ぐにゴールへ向かったボールが、ネットを揺らした。

「はあ…っ、」

僅かに息が切れる。今日はやけに身体が重い。
昼間の練習に加えて夜に個人練習をはじめてからもうずいぶんとたつ。連日の疲れが溜まってしまったのだろうか。
情けない。たかがこの程度についてこれないなど。
まだまだ、これくらいじゃやつらには勝てない。

「ガゼル、」

もう一度ボールを蹴り始めた私に、背後から声がかかる。
振り向かなくともわかる。耳に馴染んでしまった、声。

「…バーン、」

立ち止まって、振り返る。
何のようだ、と問う私に、バーンは溜息をついた。

「もう12時回ったぜ、いいかげん休めよ、」

「…貴様には関係ないだろう、」

バーンに向けていた視線をボールに戻し、また走り出す。
フィールドを駆け抜け、ゴールへ向かう私の前に、ふらりとバーンが立ちはだかった。眉間に皺を寄せて、私を睨んでいるようだ。
私の邪魔をするつもりなのか。
いいだろう貴様くらい軽く抜いてやる。
さらに加速して、バーンの横を走り抜けた。完全に、抜いたと思った。

「な…っ、」

しかし私の足元からボールは消えていて。
慌てて振り返ると、バーンが反対側のゴールへ向かって走っているのが見えた。
バーンの蹴ったボールがゴールネットを揺らす。
あっさりとバーンにボールを奪われたことが悔しくて、がしがしと髪を引っ張る。
バーンはボールを抱えて私のところまでくると、私の手を掴んで歩き始めた。

「バーン?」

「ほら、寝るぞ、」

まだやれる、と言いたいところだが、今まさに見せ付けられてしまった。
今日はもう無理だろう。
悔しい悔しい悔しい。
バーンに手を引かれながら、ぐっ、と唇に歯をたてた。



「…バーン、どこへ行くつもりだ、」

バーンは私の手首を掴んだまま、大股でどんどん歩いていく。私の部屋は、こっちではない。
掴まれた腕を軽くひいてみるが、バーンの力は緩まず、無言のままだ。
ああそうか、こっちは、バーンの部屋が。

「お前の部屋さ、」

「え?」

おそらく目的地であろうバーンの部屋まであと少し、というところで、バーンがようやく口を開いた。

「電気、切れてたから、」

だから、俺の部屋にいろよ、と言いながら、バーンは足を止めた。
薄暗い廊下でもわかる金色の瞳が、じい、と私を見つめている。

「え、ああ…、わかった、」

なんで電気が切れたくらいで、とか。そもそもなんで切れてることを知ってるんだ、とか。色々思うことはあったのだが。
強い金色の瞳と、私の手首を握る力がますます強くなったことで、何も聞かずに、頷いてしまった。
バーンは少しほっとしたように顔を緩めて、また私の腕をひいた。



バーンの部屋でシャワーを浴びて、これ着てろ、と渡されたTシャツとハーフパンツを身に着けた。
私のものよりほんの少しだけ大きいような気がするのは、気のせいだろうか。
むっ、と眉間に皺を寄せてシャワールームから出ると、バーンはベッドに寝転んでいた。

「…何難しそうな顔してんだよ、」

身体を起こし、胡坐をかいて私に首を傾げてみせる。

「…いや、」

なんでもない、と首を振る。
おかしい。身長は、ほんの少しといえ私のほうが、高いはずなのに。
それを口に出すほうが悔しくて。バーンのベッドにうつ伏せに倒れこんだ。

「もう寝るのか?」

もう寝ろ、と私を部屋に連れてきたくせに何を、と喉まででかかった言葉を飲み込む。

「ああ、少し、疲れた、」

「そっか、」

じゃあ、とバーンが薄手の毛布を私にかけた。
部屋の照明を落とすと、私の隣にごろりと横になる。

「おやすみ、ガゼル、」

豆球の仄かな光の中、ちらりと隣のバーンに視線を向けた。
勝気な金色の瞳は、すでに瞼に隠れていた。
もう寝たのか。相変わらず寝つきの良いやつだ。
少し羨ましい。私は、昔から寝つきが悪いから。
バーンを起こさないようにそっと仰向けに体勢を変える。
淡いオレンジの豆球をじい、と見つめていると、ふと前にもこんなことがあったな、と思い出す。
ああそうだ、確か、この名前を名乗るようになってすぐの頃。
私の部屋の豆球が、切れてしまって。
それで。バーンの、部屋に。

そうか、だからバーンはさっき。

『お前の部屋さ、電気、切れてから、』

そんな口実、なくともいいのに。
小さく笑って、またバーンに視線を戻す。
口を開けて寝ている様はひどく幼い。
明日は、バーンとの必殺技もうまくいくような気がする。

勝てる。きっと勝てる。
バーンと、私なら。


今日は、よく眠れる気がした。

















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バンガゼの日おめでとうございます!
10月9日なのでカオス時代のバンガゼです^^



10.10.09.






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