小説 | ナノ

晴矢と風介



3topは一緒に住んでます
















―設定温度は27℃で。




エアコンと君






―あつい、

頭をしめるのは、その言葉だけ。
昼を過ぎて窓から入る日差しはますますきつくなり、存在を主張するかのような蝉たちの声がひたすらに響いている。
一応エアコンはつけてあるが、ヒロトから27℃以下してはいけないときつく言われているためそれ以上下げることはできない。
風介はぐったりとフローリングに寝ころび、わずかにひんやりとする床に頬をひっつけた。
しかしすぐに自分の体温により温くなり、ずりずりと位置を変える。

「いも虫かアンタ、」

もそもそと一定範囲を動き続ける風介を見ていた晴矢は、ため息をついた。
呆れたような声を出す晴矢を、風介はじとりと睨む。

「…うるさい、」

風介はまた、ごろりと身体を動かすが、もうあまりひやりとしなくなってきた床にがしがしと髪を引っ張った。
その様子をずっと見ていた晴矢は小さく笑って、風介の側にしゃがんだ。

「風介、ヒロトが出かけたぜ、」

声を落として耳元で囁くと、風介の動きがぴたりと止まり、ゆっくりと晴矢と視線を合わせる。

「晴矢…、」

「ああ、」

視線を合わせたままにやりと笑い、ふたりはそっと手をとった。



「あー、やっぱ涼しいー、」

ソファにどかりと座った晴矢はエアコンから吐き出される冷たい風にうっとりと目を閉じた。
風介もまた、晴矢を背もたれにソファに横向きに腰をかけて頬を緩めている。
エアコンの設定温度は24℃。
ヒロトに見られたなら、確実に怒鳴られるであろう数値である。
晴矢と風介は、ヒロトが外出している間、こうしてこっそりと設定温度をさげていたのだ。
室温がすっかり下がった中で、晴矢は自分に凭れかかる風介の身体に腕を回し、ぎゅうと抱き締める。

「…何、」

少し見上げるように晴矢を見て、風介は眉間に皺を寄せた。

「いいだろ、」

「…暑い、」

「今は涼しいだろー、」

まあ確かに今は涼しいが、と風介が身体から力を抜けば、晴矢が思い切り風介の体を引き寄せた。

「わ…っ、」

自分の膝の上に風介を乗せると、晴矢は風介の身体をしっかりと抱き締める。そのまま首筋に顔をうずめ、快適快適、と満足げにため息をつく晴矢の首を、風介がぐいと押しやった。

「何すんだよ、」

「それはこちらの台詞だ暑苦しい、」

再び眉間に皺を寄せた風介に、晴矢も顔を顰める。

「涼しいじゃねーか、」

「君の体温は高いんだよ、」

だから離れろ、と手に力を込める風介に、晴矢はじゃあ、とリモコンを手に取った。

「もっと部屋が涼しかったら文句ねーんだな、」

「…は?」



現在の設定温度は19℃。室内は涼しいというよりはひんやりとしている。
これならさすがにふたりがひっついていても暑くはない。
風介も拒むことをやめ、今は大人しく晴矢の腕の中でうとうととしている。
風介の長い睫毛が、繰り返しゆっくりと落ちかけてはまた持ち上がる様をしばらく見ていた晴矢も、だんだんと思考がぼんやりとしてきたのを感じていた。
ふあ、と大きく欠伸をすると、風介がくすくすと笑っていた。

「…なんだよ、」

「まぬけ面、」

お前だって、と頬をつつくと、風介も晴矢の頬をむに、と引っ張った。
こつん、と額をぶつけて、頬に触れたままソファに寝転がる。

ひんやりとした部屋で、ほんのりと暖かい熱に触れて、ああなんて贅沢なんだろうと、ふたりで笑った。



「ただいまー、」

ヒロトが家に帰ると、玄関がいつもり少し涼しい気がした。
今日は外が特別暑かったからそう感じるのかな、とリビングの扉を開くと、まるでコンビニに入ったかのようなひんやりとした風がヒロトの身体を包む。

「…何これ、」

ふと視界に入ったソファでは晴矢と風介がぴったりとくっついたまますやすやと寝息をたてていて。
ソファの側に落ちているリモコンを拾い上げると、設定温度は19℃となっていた。

「まったく、俺がいないとこうやって温度下げるんだから、」

地球に悪いでしょ、ていうか、光熱費考えてよね、とため息をつきながら電源を落とした。
小さく音を立てて動いていたエアコンは、ここで動きを完全に止めた。

「じゃあおやすみ、ふたりとも、」

ヒロトはにこりと眠るふたりに笑いかけて、ぱたん、とリビングの扉を閉めた。





(あっつい…!)
(え、あれ、なんでエアコン動いてねーんだよ!)
(いいから離れろ暑苦しい!私を殺す気か…!)
(ひっでえなほんとに!)
(あ、つい…、)
(え、おい、風介ええええ!)
















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まあこの後ヒロトさんのお説教タイムですよね(´∀`)

やぎさんから素敵なねたをいただいたのに中途半田ですいませ…!
私にはこれが限界でしたorz

10.08.18.






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