02 ―3人で。 ホワイトマーガレット 02 俺がいて、風介がいて、ヒロトがいて。 ずっと3人だった。今まで、ずっとずっと。 それが変わる日がくるなんて、想像もしていなかったんだ。 風介がヒロトへの想いを自覚した日。 俺は認めたくなかった感情を認めざるをえなくなった。 「晴矢、はるや…、」 縋るように俺にしがみつく風介は蒼碧の瞳からぼろぼろと涙を零していて、その涙がひどく綺麗だと、ぼんやりと思った。 「風介…、」 背中をぽんぽんと撫でると、よりいっそう嗚咽が大きくなった気がした。 ヒロトが、円堂と付き合うと知ってからの風介は、はたから見ても明らかなほど動揺していた。 ヒロトもそんな風介に困惑しているようだったから、とりあえず風介を部屋へ連れて帰った。風介は俺が抱き締めてからずっと、涙を零している。 そこで俺はようやく気付いた。 風介は、ヒロトのことを好きなのだ。 だから、円堂と付き合いはじめたことを聞いてショックを受けたのだろう。 俺はこれ以上どうしたらいのかわからず、ただ風介を抱き締めるしかできなかった。 ずっと、認めたくなかった感情を押し込めながら。 しばらくすると風介の身体から力が抜けて、完全に俺の身体にもたれかかってきた。 「風介?」 「ん…はる、や…、」 風介の身体を腕で支え、顔を覗き込むと、蒼碧の瞳はほぼ瞼に覆われていて。 思わず苦笑が零れる。 「風介、今日はもう寝ろ、な?」 風介はわかっているのかいないのか、こくんと頷きまた俺に腕を伸ばす。 「風介?」 俺の身体に腕を回した風介は、そのままごろんと横になった。抵抗しなかった俺も、一緒にベッドへ寝転ぶ。 「…風介?」 「はる…や…、」 風介はもうほとんど意識はないようで、蒼碧の瞳も見えない。 仕方ないな、と俺も目を閉じた。 翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日に目を覚ませば、目の前に風介の寝顔があって。その目元は朱く腫れていた。 あれだけ泣けばな、と目元をそっと撫でると、風介の長い睫毛がぴくりと動いた。 「んん…、」 「…風介、」 目を覚ますかな、と思ったが風介は相変わらず小さく寝息をたてるばかりで、起きる気配はない。 風介の頭を撫でてベッドから降りようとするが、くん、と引っ張られたような感覚に動きを止める。 振り向けば、未だ眠ったままの風介が俺の服の裾を掴んでいた。 振りほどくこともできたが、なぜかそれを行動にうつせず、俺はベッドに腰をかけた状で風介の頭を撫で続ける。 今の風介をひとりにしてはいけないと、ふとそう思ったのだ。 こん、と控え目にドアをノックされ、開けるよ、というヒロトの声と同時にドアが開く。 「よぉ、」 ひらひらと片手を振ってみせれば、ヒロトはやっぱり、と笑った。 「おはよう晴矢。ひょっとして昨日の夜から?」 「ああ、昨日うっかり一緒に寝ちまってさ、」 「そう、」 ヒロトは苦笑しながらベッドに座り込んだままの俺の側までくると、そのまま風介の寝顔を覗き込んだ。 朱くなった目元にヒロトの顔がかすかに曇る。 「…風介、泣いてたんだね、」 「あー…、」 俺が返答に詰まっていると、ヒロトは困ったように笑ったまま、そっと風介の髪を梳くように撫でた。 「…ごめんね、風介、」 そのヒロトのごめんねが、何に対しての謝罪だったのか、その時の俺にはわからなかった。 ヒロトにはわかっていたのだろうか。 風介の本当の想いも、俺の想いでさえも。 俺がいて、風介がいて、ヒロトがいて。 ずっと3人だった。 今まで、ずっとずっと。 それが変わる日がくるなんて、想像もしていなかったんだ。 風介がヒロトへの想いを自覚した日。 俺は認めたくなかった感情を認めざるをえなくなった。 ―俺は、風介のことが好きだ。 --------------- 晴矢の自覚。 10.07.14. |