小説 | ナノ

晴矢と風介


高校生ぱろ
幼馴染設定
















―君と一緒に自主休講




屋上でふたり






教師の声と、教師が黒板に文字を書く音と、それをノートに書き取るシャーペンの音。
教室はそんなありふれた音に包まれていて、時々外のグラウンドから掛け声やホイッスルの音が聞こえてくる。
午後の授業はひどく眠くて、落ちそうになる瞼をなんとか持ち上げる。

―昼すぐの古典は反則だ…。

シャーペンをころりと机に転がして両肘をついて頭を支える。ああこのままだと寝るなあと目を閉じかけたところで、がたりと響いた大きな音に意識が覚醒した。
何事かと、教師を含めクラス中の視線が音の方へ向く。
視線の先は、教室の一番後ろ、しかも窓際という好ポジション。その席を常にキープしているのは、俺の幼馴染みで、

「どうした涼野、」

教師が声をかけると、風介は立ち上がったそのままの位置で、頭も下げずに一言。

「頭痛いんで保健室行ってきます、」

そのままさっさと教室から出て行ってしまった。
俺はその見慣れた細い後ろ姿に、こっそり溜め息をついた。
風介が授業を抜け出すのなんてしょっちゅうのことで、教師も溜め息と同時に頭をかかえるが、すぐに授業を再開した。
クラスメイトも慣れたもので、今さら驚くやつなんかいない。
授業はそのままごくいつも通りに進み、終了のチャイムが鳴っても、やはり風介は帰ってこなかった。



「さっすが涼野だよなー、」

「教師も何も言えねぇもんな、」

「涼野くん格好良いよねぇ、」

「頭良いのにちょっと悪いってとこがねー!」

そんなクラスメイトの声に、携帯をいじりながらつい聞き耳をたててしまう。
確かに風介は頭が良い。
この間の中間テストも満点ばっかりだった。
しかし、不良というほど素行が悪いわけではないが、さぼり魔だ。
退屈、とふらりと授業を抜け出す。
そんな時はたいてい屋上か保健室でだらだらしてるだけだ。

「ねぇ南雲くん、涼野くんって昔からあんなかんじ?」

「んあ?」

いきなり話をふられて携帯から顔をあげる。
幼馴染みなんでしょ?という期待に満ちたクラスメイトの視線に何と言ったものかと言葉に迷う。

「あー、中学んときはもっと普通だったぜ、いかにも優等生ってかんじの、」

じゃあ高校から変わったんだあ、ときゃあきゃあ騒ぐ理由が俺にはよくわからない。
風介の何を知って盛り上がってるんだ。

「あれ、南雲ー?」

携帯をポケットに突っ込んで教室から出て行こうとした俺に、どこ行くんだ、と声がかかる。
俺もホケンシツ、と後ろ手に手を振って、未だ風介をねたに騒いでいる教室を後にした。



始業のチャイムを聞きながら誰もいない階段をのぼる。
今日は天気もいいし風もあるから屋上かな、という俺の予想は大当たりで、やっぱり風介は屋上にいた。
銀色の髪をふわふわと風に弄ばれながら、フェンスに軽く凭れるようにグラウンドを眺めている。

「風介、」

「晴矢…、」

声をかければどことなく気怠げに振り向く風介。
その蒼碧の瞳も眠たそうにとろんとしている。
風介のすぐ隣まで近付き、並んでグラウンドを眺める。ちょうど隣のクラスのやつらがサッカーをやっていた。
あいつ動きいいなあ、などと、ついサッカー部の血が騒ぎボールを目で追っていると、隣からこてん、と風介の頭が肩に乗った。

「風介ー?」

近すぎて見えない表情を覗こうと首を伸ばしても、やっぱり風介の顔は見えない。
まあいいか、とそのままにしてると風介がぽつりと口を開いた。

「晴矢、お前授業は、」

「あー、さぼり、」

お前と一緒、と笑いながら言うと、風介はそれに鼻で笑って返す。

「私とお前じゃ頭のつくりが違うんだ、授業くらい出ろばか晴矢、」

俺に乗せていた頭を離して、ぼーっとまたグラウンドを眺める風介。
今のが、わざわざ自分に付き合わなくてもいい、という意味だということを理解できるのは、俺しかいないと思う。

「ふーすけ、」

間延びしたように呼べば、眉間に皺を寄せて、うっとうしげに目だけがちらりと俺のほうへ向けられる。
振り払われるかな、と思いつつそっと頬を撫でた。白い肌はきめ細かくて柔らかかった。

「…なんだ、」

風介は相変わらずうっとうしげに視線を向けるが、しかし俺の手を止めることはせずにされるがままだ。

「お前、すげー隈だぞ、」

頬を撫でていたとき気付いた、風介の目の下の隈は結構色濃い。
最近寝てんのか?という俺の問いに、風介は答えなかった。
はあ、と溜め息をついた俺を、風介がなんだといいたげに軽く睨んでくる。
頬を撫でていた手を離し、なんでもない、と手を振ってみせればほんの一瞬、風介が淋しそうな顔を見せた。
俺はフェンスを背もたれにその場に座り込む。
ちょいちょいと手招けば、すんなりと風介もその隣に座った。
風介の肩に腕を回し自分のほうへ引き寄せる。
こてん、とまた俺の肩に頭を乗せた風介は何も言わずに静かに目を閉じた。

「風介…?」

長い睫毛がゆっくりと持ち上がる。
蒼碧の瞳は半分夢の中のようだった。

「…最近、眠れないんだ…、」

風介はちょっと不眠症のけがあるから、定期的にそんな時期がくる。
高校になってからは特に酷いらしく、眠れない日が長く続くらしい。
俺にも言ってくれないから、俺が気付くしかない。

「はるやの、そばなら、ねれそう…、」

ほとんど回っていない呂律でそう言うと、すーっと目が細くなっていく。
頭を軽くくしゃくしゃに撫でてやれば、風介はもう一度俺の名前を呼んでから、意識を手放した。
すうすうと聞こえる穏やかな寝息にほっと胸をなでおろす。
肩に回していた腕をはずして、力なく投げ出されている風介の手をとり、その細い指と俺の指を絡めた。
風介起きたら怒るかな、とも思ったが、こうなったら当分起きないだろうから、まあいいだろう。

眠る風介はいつもより幼く見えて、こんな顔を見られるのだって俺だけだ、とひそかな優越感にひたる。

「おやすみ、風介、」

そっと風介の唇にキスをして、俺も午後の穏やかな空気に意識を手放した。















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ちょっと不良っぽい涼野さん目指して撃沈。


10.07.13.加筆修正






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