小説 | ナノ

瞳子とヒロト


捏造お日さま園
















―星に願いを、




短冊に想いを






がさがさと、笹が擦れ合う音がする。
色紙で作られた色とりどりの飾りを纏う笹は、先日まで園の入り口に飾られていた七夕のものだ。
瞳子は両手いっぱいにそれを抱えて運んでいた。七夕を過ぎてしまったらもうこれらは片づけなければいけない。
笹には園の子どもたちが書いた短冊がいくつも揺れている。
ちょうど目の前にはヒロトの短冊がかけられていた。
幼い子どもにしては綺麗な字で『みんなでたのしくさっかーができますように』と書かれている。瞳子の顔にも自然と笑顔が浮かんだ。

「ねえさん?」

突然後ろから声をかけられて、首だけで振り返ると、そこにはヒロトが立っていた。
きょとん、と首を傾げてこちらを見上げている。

「どうしたの、ヒロト、」

「なにしてるの?」

ヒロトは小さく傾げていた頭をさらに傾げて、ねえねえと瞳子の服の裾をそっと掴んだ。

「それどうするの?」

「七夕が過ぎちゃったから、片付けるの、」

瞳子がそう返すと、ヒロトはふうん、と頷いて、にっこりと笑った。

「おれもてつだう!」

かしてかして、と手を伸ばすヒロトに、瞳子は小さく苦笑をもらした。この笹は結構大きいのだ。瞳子がやっとで抱えているこれを、小さなヒロトにはとても渡せない。

「じゃあヒロト、お部屋のドアを開けてくれるかしら、」

あのお部屋よ、と瞳子が示したのは、笹を片付ける倉庫のものだ。
ヒロトは目を輝かせてドアの前までぱたぱたと走っていく。
小さな手でドアを開くと、瞳子にはやくはやくと手招きをした。

「ありがとう、ヒロト、」

「えへへー、どういたしまして!」

なんとか笹を倉庫に運びこみ、ヒロトの頭をよしよしと撫でる。
ヒロトは少し頬を染めてにこにこと笑っていた。
そのとき、笹からひらりと一枚の短冊が外れた。舞うようにしてゆっくりと床に落ちてきた真っ赤な短冊を拾い上げる。

「あら、」

そこには大きく、どこかぎこちない字で『ふうすけとなかなおりできますように』と書かれていた。

「あ、はるやのだー、」

ヒロトも瞳子の手元を覗き込む。
そういえば、と瞳子は七夕の前日、この短冊を書いた日のことを思い出した。
あの日、晴矢と風介は何を書くかを教える、教えないで少し揉めたのだ。
あのふたりが言い合いをするのはいつものことで、でもその後はまたすぐ一緒に遊ぶのだ。
喧嘩するほど仲が良い、とはまさしく晴矢と風介のことだろうと、瞳子は思っている。
結局晴矢は喧嘩してしまったことを気にやんで、仲直りできますように、と書いたのだろう。
そうするとついつい気になってしまうのが風介の短冊だ。悪いかなあとは思いつつ、好奇心でちらっと風介の短冊を探した。
瞳子の視線に気付いてか、そうでないのか、瞳子が見つけるよりも早く、ヒロトが水色の短冊を両手で握っていた。

「ふうすけのみつけちゃったー、」

瞳子はまた小さく苦笑してヒロトの手元を覗き込む。風介の短冊には、晴矢のものよりはずいぶん小さな字で『はるやとなかよくできますように』と書かれていた。
ヒロトと顔を見合わせて、ついふたりで笑ってしまった。

「おほしさま、おねがいかなえてくれたんだね、」

「そうね、」

結局あのふたりは、似た者同士なのだ。



瞳子がヒロトと手を繋いで倉庫から出ると、同じように手を繋いだ晴矢と風介がヒロトに走り寄ってきた。

「はるや!ふうすけ!」

「ひろと、さっかーやろうぜ!」

晴矢は片手にサッカーボールを抱えていた。
ヒロトの顔がぱあ、と明るくなる。

「うん、やる!」

「いこう、ひろと、」

風介があいているもう片方の手を伸ばすと、ヒロトはその手をしっかりと握った。

「いってらっしゃい、」

「いってきます!」

瞳子が笑顔で手を振ると、ヒロトは笑顔で手を振り返した。
手を繋いだまま走っていく3人の後ろ姿を、瞳子は笑顔で見送った。

「良かったわねヒロト、」

短い足で懸命にボールを追いかける子どもたちはみんな笑顔で。
ヒロトのお願い事も叶えてくれたお星様とやらに、感謝しなくては、と考えたところで、はたと思いだす。
自分の願い事すらも、叶えられていることに。

『みんなが笑顔でいられますように』

瞳子は雲ひとつない晴天の空を見上げて、一言、ありがとうと呟いた。

















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七夕話が書けなかったので七夕後日談を^^

捏造お日さま園です。
だいたい5歳くらいをイメージしていただければ^^
瞳子さんは中学生くらいで。
ほんとは治とリュウジもだしたかった…!

10.07.11.






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