01 ―世界は、 ホワイトマーガレット 01 私たちの世界は私たち3人で。 私たち3人が世界の全てだった。 それまでがそうだったように、これからも、そうだと思っていた。 全ては、ヒロトのこの一言から始まった。 「俺、円堂くんと付き合うことになったから、」 大事な話があるんだ、と。ひどく真面目な顔をしたヒロトに呼ばれた私と晴矢は並んでソファに座り、向かいのソファにヒロトがひとりで座っていた。 ヒロトは、はじめはどう言ったものかと悩んでいたようだったが、円堂守の名前を口にした瞬間から、表情はひどく穏やかに、声はひどく柔らかいものになっていった。 ―円堂守と付き合う、 私はヒロトが何を言っているのかわからなかった。 ヒロトが円堂守に好意を抱いているのは知っていたし、円堂守がヒロトに好意を抱いているだろうことも、なんとなくではあるが感じていた。 けれど。 「ヒロト、いきなり何を言いだすんだい、」 声が掠れているのが、自分でもわかった。指先もかたかたと震えている。音がよく聞こえない。視界が黒く滲む。ああ目眩がする。自分が本当に座っているのかもわからない。 そんな私どこまで気付いたのか、ヒロトはちょっと困ったように眉を下げた。 「いきなりでごめんね、でも、風介と晴矢には一番に知ってほしかったんだ、」 ということは、ヒロトと円堂守は今日、付き合うことになったのだろうか。 ヒロトの頬がほんのりと朱くなっているのに気付いて、私は呼吸すらも苦しくなってきた。 ―なんで、なぜ、どうして、 そんな言葉がぐるぐると頭を巡る。 まだ何が言っているヒロトの声が聞こえない。頭の奥まで、自分の鼓動が響く。 「良かったじゃねぇか、ヒロト、」 そんな私を思考の闇から引き戻したのは、晴矢の声だった。 そっと晴矢のほうへ目をやれば、少しかたい顔をして、それでも真直ぐにヒロトを見つめていた。私はそのときはじめて、自分が深く俯いてしまっていることに気付いたのだった。 「晴矢…、」 ヒロトが心配そうに晴矢の名を呼ぶ。 晴矢はようやく顔を和らげて、ほんと、良かったな、と言った。 そんな晴矢に、ヒロトもにこりと笑い、次に私のほうへ向いて。 「風介…、」 そっと名前を呼ばれて小さく肩がはねる。これではまるで叱責を恐れる子どもではないか、と思い。 ―恐れる?何を? ふと自分でも自分がわからなくなって、また、深く俯いた。 そんな私の肩に、そっと温かい手が触れた。そのまま真横に引き寄せられる。 「ヒロト、風介のやつ多分混乱してるからよ、部屋連れてくな、」 晴矢の腕へ引き寄せられた私は、それでも今なにが起こっているのか理解できず、晴矢に促されるままに自室へと向かったのだった。 「落ち着いたか?」 自分の部屋のベッドの上にぺたりと座り込んだ私は、晴矢にそう尋ねられ、ぼんやりとしたままの思考で小さく頷いた。 正直、頭がついていかない。 「はる、や…、」 おそるおそる目の前に立つ晴矢に腕を伸ばせば、晴矢は優しく私の手をとって、ベッドを膝を付くと、そのままそっと私を抱き締めた。 自分のものよりも高い体温に包まれ、じわりと温もりが伝わってくる。 「風介…、」 頭をそっと撫でられると、鼻の奥がつん、と痛くなって、薄暗い部屋がじんわりと滲んだ。 「晴矢、はるや、」 晴矢の名前を何度も呼びながら、私を抱き締める晴矢の背中に腕を回す。 零れる涙をそのままに、縋るように晴矢の服を掴んだ。 私たちの世界は私たち3人で。 私たち3人が世界の全てだった。 それまでがそうだったように、これからも、そうだと思っていた。今日までは。 ヒロトの1番は円堂守で。 ヒロトの世界には円堂守がいる。 私はこの日、気付いてしまったのだ。 ヒロトのことがすきだったということに。 --------------- 風介の自覚。 10.07.07. |