散る夢で君と二人 | ナノ


▼ 10月

 半ドンの学校が終わって下校し、家にランドセルを投げ捨てるように置いて、すきっ腹に焼き飯を掻きこむ。少し家事を手伝って、さっさと宿題を片付ける。夕方から友達と合流して、神社でやっている秋祭りに行く約束になっている。約束の時間までまだまだ時間はあるが、いてもたってもいられなくて、早々に家を飛び出した。
「いくら何でも早かったかな」
 提灯を見上げて頭を掻いた。秋祭りといっても、近所の神社であるこぢんまりしたものだ。神輿が練り歩き、商店街の有志で少しの屋台が出る程度。足を運んだ神社は準備に慌ただしい。徐々に出来上がっていく祭りの姿はわくわくする。
「おい坊主、ちいと気が早いぞ。公園で遊んできな」
「……はーい」
 子供がうろつくと邪魔らしい。しっしと追い払われてしまい、水を差されてなんだか癪だ。言われた通りに公園で時間を潰す気にはならなかったから、神社を出るフリだけして、反対に奥へと足を進めた。境内は騒がしいが、林の薄暗がりに向かうと途端に喧騒が遠のいて、澄んだ空気に少しささくれた心が癒される。
「まだ時間、あるよな」
 時計は持ってないし、奥に向かうほど木々に阻まれて涼しさを帯び、時間帯が分かりづらくなっていく。それでも僕は先に進んだ。この神社の奥宮までは少し距離があるせいか、妙に寂れている。この先で誰かに会ったことはほとんどない。秘密基地にするには罰当たりで、厳かな雰囲気はきっと不気味なんだろう。大人は面倒臭がって足を運ぶことはないみたいだ。
 僕はここが好きだった。友達とそうそう来る場所ではないから、ヒロぐらいしかこのお気に入りスポットを知らない。ひやりとした空気を肺に取り込むと、この場所の雰囲気にのまれて心が凪ぐ感覚は好きだ。
 奥宮こそ真に神様がいる場所だというし、実際ここでは池の真ん中に社があって、その中にご神体らしい岩が祀られている。そこまで至る道は大して舗装もされていないし、参拝しづらいから、みんな本殿の方に祈って満足するらしい。本当に神様なんて存在があるのかは知らないけれど、ちょっとした非日常感と特別感を覚えていることは否めない。こんないい場所なんだから来ればいいのにとも思うし、僕にとってはちょっぴり特別な場所だからこのままでもいいとも思う。
「非日常と言えば、あれか」
 春に見た夢と靄女が脳裏に浮かんで呟きが漏れた。妙に意味深で、記憶と印象に残る明晰夢。彼女自身の頭部を除いて、すべての感覚は生々しかった。物に触った時の質感と重量感、家具を叩いた時の音、添い寝する羽目になった靄女の鼓動。顔が見えないのは、誰か忘れているのかとしばらく考えたが、あんな適当で杜撰でちょっと横暴な大人の女性に心当たりはない。
「あんな大人にはならないぞ……」
 まあ、反面教師としては悪くないのかもな。そう思うことにして、深呼吸する。

***

コスモス────調和

prev / next

[ back to top ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -