汚れた僕は
ヒロトと風丸









「きれい」

そう呟いてはいつも俺の髪を弄っていた
人の髪なんか弄って何が楽しいんだろう
呆れつつも、好きなようにさせてる俺にも問題が有りそうな気もするが

****

彼の恋人は少し変わり者だ
左右に撥ねた、大分癖のある赤髪を揺らす
吸い込まれそうなライムグリーンの瞳
雑誌を読む風丸の隣で、空色をした彼の髪で遊んでいた
基山ヒロト
かつて宇宙人を名乗り、風丸を悩ませた原因の種
そして今も、悩まされている
合宿所には一人につき一部屋が用意されている
毎日ハードな練習をしているのだから、こちらとしては有り難い話だが
しかし、そんな考えを持たず、人目を盗めると調子に乗っているのがヒロトだ
入浴が終わる頃、こうして毎晩のように風丸の部屋を訪ねてくるのだ

「ヒロト、髪梳かせない」
「じゃあ俺がやってあげるよ」
「いいって」
「つれない、いいから櫛貸して」

風丸が、言われた通りに櫛を渡すと、慣れた手つきで風丸の髪を梳いていく
その感覚が少し心地好くて、暫くの間、ヒロトの好きにさせておいた
隣の部屋で円堂がボールを蹴る音が聞こえる
明日練習あるのに我慢出来ないのかアイツは、などと思いながら、小さく溜息をついた
今まで黙っていたヒロトが急に手を止めた
疑問を覚えて名を呼ぶと、間髪入れずに風丸の首筋に噛み付いた

「……ひ…っ」

ビクリと身を震わせ、咄嗟に発した声に羞恥心を持ち、噛み付かれた部位を抑えた

「何するんだヒロト!」
「だって、首筋綺麗だったから」
「だってじゃない、次やったら蹴るからな」

ヒロトに渡していた櫛を奪い、自らで髪を梳き始める
ある程度整った所で、明日の練習に備えて、早めに寝る準備をする
放置しておけば黙るだろうと考えた風丸の読みは正しかった
ヒロトは飽きて、さっきまで自身が読んでいた雑誌を手に取り読み始めていた

「……相手して欲しいなら言えよ」
「そんな事言うから隙を突かれちゃうんだよ」

憎まれ口しか言えないのかコイツは…!
ヒロトを少しでも健気に思い、情を掛けてやった少し前の自分を恨んだ
とっとと寝てしまおうと、目の前にいる奇人を部屋に戻そうと肩に手を掛けた
その刹那、文字通り足元を掬われた
頭を打ったのに大して痛みを感じないのは、倒れたのがベッドの上だったからだろう
覆いかぶさるように手首を掴まれた風丸は、身動き一つ取れずに、ヒロトからのキスを受け止める他なかった

「……んっ、はぁ…っ」

呼吸も出来ないくらいに貪られ、熱を孕んだ頭は冷めることなく思考を止めた
柔らかい唇を感じ、ぬるりと侵入してきた舌に小さく身体を震わせた
好きなようにされて、若干嫌気が差した風丸は、侵入してきた舌に噛み付いた

「……いたっ」
「さっきお前がしてた事と大差ないだろ」

挑発的に笑う風丸が、「もしかしてこういう事したかったから毎晩俺の所に来てたのか?」と問う
観念したヒロトが「そうだよ」と呟く

「君の髪が綺麗だったから」
「はぁ?」
「僕みたいに汚れた奴はさ、君みたいに綺麗な子と一緒に居れば、少しはまともになるでしょ?」

やっぱりコイツ変だ
優しく微笑むヒロトはどこか悲しげだった
自嘲したように笑いかけるヒロトは、やっぱり綺麗とは言えなかった

けれど

「お前は汚れてなんかないよ、それはむしろ…」


(流星は時に光を失う)


Fin.
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テーマ「人外ファンタジー」
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