大好きな君へ
蘭丸と拓人
死ネタ・グロ注意








どうしてこんな事になってしまったんだろう

彼はただ、守りたいと
彼はただ、笑ってほしいと
愛する人に願っただけだった


****
「ナイスパス!」

毎日変わる事のない君の笑顔
ボールを受ける度に君と交わすアイコンタクト
それが「日常」

彼、霧野蘭丸はその「日常」に不満はなかった
一つ欠点があると言えば、愛する人に想いを伝えられない事

想い人は神童拓人
霧野の幼馴染みに当たる、雷門中サッカー部のキャプテン

他人の事を言えた立場ではないが、神童は異性から抜群の人気を誇る
だが当の本人は恋愛には興味はないらしく、「今はサッカーがしたい」などと何とも勿体ない事を言っている

霧野からすれば好都合
浮かれてばかりはいられないけど
同性という壁を越えなければ、霧野の恋は成立しないのだから

「神童」
「ん、何?」

部活が終わって、グラウンドの整備をしていた時
霧野が神童に話を振った

「今日の帰り寄りたいとこあるんだけどさ、付き合ってくれよ」

なんて事ない、一緒に居たいと云うだけの事
別に買いたいものなんてないし、得に行きたい場所もない
ただ神童と居たいだけの口実に過ぎなかった

練習で使ったボールを片付け、倉庫の鍵を閉めたところで神童が顔を上げた
霧野が好きな、綺麗な笑顔で

「分かった」
と一言

適当な店でウィンドウショッピングをした後、沈みかかった夕日を眺めながら神童と肩を並べて歩く
日が伸びてきたな、と思いながら、話すのは他愛もない中学生同士の会話
こんな時でも幸福を感じてしまう霧野は、単純かな、と苦笑いせずには居られなかった

「あっそういえば昨日松風がさ…」
「え……」

神童の口から後輩の名前が出てきた時は、自分の中から何かが失われた気がした

アレ?
なんか、嫌なカンジ

「俺の笑顔が好き、って」

逆光で分かり難かったけど、確かに彼は頬を染めて笑っていた

あぁ、もう台無し
神童が自分以外のやつの事で笑うと、どうしようもなくイライラする
こんな事、今までになかったのに
霧野は今すぐこの場から立ち去りたくなった
だって面白くない
止めろよ、俺以外に笑いかけるなんて

不快感が頂点に達しようとしていた霧野に、追い討ちを掛けるように神童がまた笑う

「それでさ、ちょっと嬉しかったんだ」
「―――――……」

あぁ、そう、で?

気が付けば霧野の右手は振り下ろされていた
ミシ、と骨が歪む音が聞こえ、顔を上げると神童が腹を抱えて疼くまる姿が確認出来た
来るしそうに息を吐く神童を見て思った

「こうすれば良かったんだな」

霧野が神童に近付いて、彼を見下ろすようにして笑った

「やめ………ッ」

神童の意識はそこで堕ちた


****

愛しいと想う人がそこに寝ている
一筋の線が神童の頬に映っていた
そういえば泣いてたっけ

霧野は神童を殴った
愛から来る暴力
打ち所が悪く、神童は気を失ってしまったのだ
まぁそれも良しとしよう
これで神童は自分しか見れなくなる
そう考えると、背中がゾクゾクした
いっそ閉じ込めてしまおうか

目的もなく霧野がボンヤリしていると、神童が眉を歪めて、視点の合わない目を開けた

「霧、野…」
「おはよう、神童」

神童の怯えたその顔が印象的だった
かつての友に殴られては、混乱もするはずだ

霧野はニコリと笑って神童に近寄る
来ないで、と弱々しく紡がれる神童の言葉は、霧野を駆り立てるには打ってつけの材料だった

「ここ俺の部屋、何度も来てるから分かるよな?」

何処か色褪せた笑顔を続ける霧野
ベッドに寝ている神童に跨がると、後頭部を抱えて優しく抱きしめた
俺の名前を呼ぶ彼の声と身体は小刻みに震えていた

「なぁ神童、好きなんだよ」
「…………」
「抱きしめたいくらい好きなんだよ」
「…………」
「壊したいくらい好きなんだよ」
「やめろ…」
「殺したいくらい好きなんだよ」
「やめろッ!!」

その瞬間、神童が霧野を突き飛ばした
あーあ、格好いい顔が台無し
そんな怒った顔が見たいんじゃないんだってば
『笑顔』を見せてよ

霧野がもう一度神童に手を伸ばした
次は突き放されたりしないようにしっかりと腕を掴んで

「嫌だ…!離し……ッ」
「聞いて神童」

ギシ、と二人分の体重を受けたベッドが軋んだ
霧野の唇が神童の唇に触れた
甘いと言うには何処か乱暴で
乱暴と言うには何処か優しいキス

「ずっと好きだったよ
ずっと、ずっと
でもなんかおかしいんだ
好きで仕方ないハズのお前を壊したいなんて思うんだ、だからさ」

霧野は棚の上に用意しておいたカッターナイフを引っ張り出して、カチカチと刃を剥き出していった
閉め切られた暗い部屋の中でも、よく分かるくらいに銀色の光を放つ

霧野はある程度長さを調節しながら、ゆっくりと頭上に振り上げていく
状況を察した神童が、なんとか逃げ出そうと抵抗を見せる
が、霧野に上手く組み敷かれているため、泣き叫ぶしか他に方法がなかった

ただ刃物を振り下ろされるのを
待っている事しか出来なかった

「やっ…!やだっ…やだぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

「すき、たくと」





****

カチカチとリズム良く時計の針が動く
静寂を際立たせるように、その音は室内に響いた
カツンとカッターナイフがフローリングの床に落ちる
さっきまで真っ白だったシーツが嘘のように黒く、赤く、染め上げられていた
まだ熱の残る神童の身体を抱き抱え、鮮血の心地良さに霧野は目を瞑った


「笑ってよ、神童」


一粒の涙が神童の頬を伝う

涙は笑顔の代償と成り果てた

(大好きな君へ)
(狂気の鎮魂歌)

fin.
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