その日はとにかく朝からついてなかった。 土方のコノヤローの置きマヨを捨ててやろうと朝早く学校へ行けば今日に限って全て持って帰っていたようで机の中は空っぽ。 体育の時間、土方のコノヤローを転ばせてやろうと思ったら避けられてうっかり自分が転び。 嫌になって午後の授業をサボっていたらあろうことか銀八に見付かり。 嗚呼、嫌な日だぜィ。 今日一日の出来事を振り返りながら緑が眩しい土手の上を歩く、歩く。餓鬼共の遊ぶやたら元気な声がいつも以上に癇に障った。 最悪、とまではいかなくとも朝からこんなにも些細な不運が続けば人は誰だって気分が盛り下がるだろう。それは無論俺だって例外ではない。 このまま帰宅、というのも面白くねェ。 そんな事を考えている内に足は自然と家とは違う方向へと向かっていた。 公園。 楽しげな子供の声、色とりどりの遊具。 何だか余計に気分が悪くなった気がした。居場所がないような、居心地が悪いような。そもそも小学生やそれ以下の子供達ばかり遊んでる中では居場所も居心地も何もないのだろうが。 つまらない。 手持ち無沙汰に地面に転がる石を蹴り上げた。ちっぽけなそれは宙へと飛んで――…遊具に当たって俺の顔面に戻ってきた。 「……なんでィ、畜生」 痛む額を撫でさすり誰に言うでもない独り言を漏らす。正確には独り言で終わるはずであった言葉、だが。 「ザマミロ」 ついていない日というのはとことんついていないものである。 そう、例えば石が当たった後に嫌いなやつと逢ったり、だ。 顔を上げて声の主を視界に入れる。ぐるぐる眼鏡にオレンジの髪。 「何でチャイナが此処に居るんでィ」 「それはこっちの台詞アル」 その後、妙な沈黙。 を、破ったのは俺でなく。 「……でこ、痛いアルか?」 もごもごと紡がれたチャイナの問い掛け。 「別にこんなもん、屁でも無ェ」 「嘘、赤くなってるネ」 じゃあ聞くなってんだ。相手の言葉の意図が汲み取れずに自然と距離を縮める眉同士。 「五月蝿ェ糞餓鬼」 「目、つぶるアル。この神楽様が直々に痛くなくなる魔法かけてやるネ、有り難く思うヨロシ」 ……馬鹿馬鹿しい。そうは感じながらも半ば自棄だったのか、俺はこいつに言われるままに目蓋を下ろした。 ちゅ、 小さな渇いた音と共に額へと触れた柔らかな感触。咄嗟に開いた双眸に映ったのは、二つの色。 やけに澄み渡った空の青と、俺の前から走り去って行く顔の赤。 (前言撤回。) (ついていない日でも、一個位は好い事あるもんだ。) (――何て我ながら単純過ぎて、) (笑っちまうけど。) |