放課後の彼
『…嫌なんだけど』
「お願い!明日ご飯奢るし!」
『え、ほんとに?』
「っ本当!」
『わかった、いいよ』


やったー!と両手を上にあげて喜ぶ友人に頬杖をつきながらため息を吐く。何でもバレー部の先輩を見に行きたいらしい。噂を少し聞いたことがあるくらいで、実際に見たことはないけど友人曰く超イケメンらしい。全然興味はないけど、付いていくだけで明日の食費が浮くんだったら喜んで行こう。

明日のご飯は何にしようかなと、考えを膨らませていた私は少し甘く考えすぎていたようだ。
友人に手を引かれて連れてこられたのは、女子の群れ、群れ、群れ。…え、今日モデルか何か来てるの?っていうか、みんなキャーキャーうるさい。


『なにこれ…』
「もうちょっと前行けないかな…」
『え、無理でしょ人多すぎ!』
「んー…、あ!あそこに隙間が!」
『えっ、ちょ、待っ…!』


人と人の隙間を見つけるなり、私の腕を掴んでいた手を離して走っていってしまった彼女に呆ける。…え、これ私付いてきた意味あったの?
人混みから少し離れたベンチに座って黄色い声を上げている女の子達を眺めていると、不意に私の隣に誰かが座って驚く。


『…え』
「何してんの?」
『国見くんじゃん』


隣を見ると、同じクラスの国見くんが座っていた。ああ、そういえば彼もバレー部なんだ。普段の彼からは想像出来ないけど、部活の時間になったら人が変わったように俊敏に動いたりするんだろうか。…ちょっと見てみたいかも知れない。


「苗字さんも及川さん目当て?」
『え、違う違う。友達の付き添いなんだけど放置された』
「へー」
『国見くんは?』
「俺は部活が始まるの待ってる。及川さんがアレだとなかなか」
『あー…。いつもああなの?』
「まぁ、そんな感じ」
『大変だねバレー部も』
「もう慣れた」


慣れたって、まだ入学してそんなに経ってないのに凄いな国見くん。それにしてもいつまで及川先輩を見ていれば気が済むんだろう。


『ね、これいつまで続くの?』
「さあ?岩泉さんが来ればすぐに終わるけど、今日は何か用事があるって言ってたし」
『岩泉さん?』
「及川さんの面倒見てる人」
『ほう…。てか、国見くん先輩が来る前に準備とかないの?アップとか』
「準備は金田一とかがしてんじゃない」
『国見くんがスポーツしてるイメージ沸かないんだけど』
「…体育とか普通にしてるけど」
『男子のやつなんて見てないよ』


国見くんって何か何やらせても「面倒臭い」の一言で終わらせそうなイメージなんだよな。申し訳ないけど。思っていたことを口に出してみると国見くんは少し眉間に皺を寄せてから、少し考えて私を見る。


『ん?』
「じゃあ、練習見てく?」
『えっ』
「どうせ友達も練習見ていくんでしょ」
『え、わかんない』
「帰り遅くなるかもしれないけど、俺送ってくし」
『いやいや、いいよ別に』


そんなの国見くんに迷惑がかかるだろうと断ろうとすると、国見くんは「いいから」と言って立ち上がる。それと同じくらいのタイミングで向こうの方から「クソ及川!何やってんだボゲェ!!」と聞こえてきた。


「あ、来た」
『えっと、岩泉さん?』
「そう。じゃ、また後で」
『えっ?ほんとに?』
「もちろん…途中で帰ったりしたら」


そう言うと国見くんは笑って、続きの言葉を言わずに体育館へ向かってしまった。…続きを言ってくれないほうが怖いんだけど。


「あ!こんな所にいた!」
『おかえり』
「もー探したよ」
『勝手に放置したくせによく言う』
「ごめんって!…ね、それより練習も見ていかない?」


両手を顔の前で合わせてそう言ってくる友人にさっきの国見くんの顔を思い出して「いいよ」と返事をすると、すごく驚かれた。…行かなかった時何されるかわかんないし、しかたなく。


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bkm
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